[mari 妄想#001] 撮影前のホテルで無防備なパンチラ

「名古屋から来たんです」

そう言って、彼女は静かに笑った。
東京の空気に少し緊張しているようなその笑みが、なぜか印象に残っていた。

名刺交換をしたわけでもなければ、連絡先を知っているわけでもない。
けれど、その一瞬の記憶だけで、俺の中には彼女のイメージが焼きついて離れなかった。

細くて長い脚。黒いマスク越しの、伏し目がちなまなざし。
控えめでいて、どこか無防備な空気をまとっている。
「撮影でこっちに来てて……」
そんな断片的な会話だけで、俺は勝手に想像を始めてしまう。

彼女の名前は、mari。
名古屋の中小企業で働く、ごく普通の26歳。
ただ、SNS経由でたまに依頼される撮影モデルの仕事を、副業として続けているらしい。
派手すぎない、どこかリアルな可愛さ。
きっと今日も、都内のスタジオでの撮影のために、ひとりホテルに滞在している頃だろう。

夜、東京のビジネスホテル。
彼女は、白いシーツの上に制服姿のまま寝転んでいた。

マスクはそのまま。髪は軽く乱れて、前髪が額に貼りついている。
スマホも開かず、ただぼんやりと天井を見上げていた。
明日の撮影のことを考えているのか、それとも何も考えていないのか。
わからない。ただ、時間だけが静かに流れていた。

mariは右に寝返り、ベッドの端に膝を曲げる。
ふわりとスカートの裾がめくれ、黒いソックスのすぐ上、白くてやわらかそうな太ももが顔を出す。

その脚は、なぜこんなにも視線を引き寄せるんだろう。

ゆっくりと仰向けに戻った彼女は、無意識に脚を伸ばし、また曲げて、足首を交差させた。
そのたびにスカートがさらにズレて、下着のラインが……もう、すぐそこまで。

彼女は知らない。
自分が今、どれだけ無防備な姿を晒しているのかを。
あるいは……知っていて、誰にも見られないこの部屋で、わざとそんな格好をしているのか。

そんなことを思ってしまうほど、mariは美しくて、静かで、色っぽかった。

もう一度、寝返り。
その拍子に、スカートが腰までめくれ上がった。

純白の下着。マスク。ホテルの白いシーツ。
すべてが淡い色で、息をするのも忘れてしまう。

彼女は、脚を閉じることも、隠すこともせず、ただ目を閉じていた。

「明日、ちゃんと起きられるかな……」

かすかな声が、マスク越しに漏れる。
それが独り言だったのか、俺に聞かせるためだったのかはわからない。
そもそも——これは現実ではない。

全部、俺の妄想なんだ。

名前も知らない、連絡先も知らない。
でも、街ですれ違っただけの彼女が、こうして俺の中で、こんなに鮮明に動いている。

パンチラなんて、たまたまかもしれない。
だらしない格好も、ただ疲れていただけかもしれない。
けれど俺は、それを“意味のある瞬間”として、脳内で保存してしまった。
あのマスク越しのまなざしと一緒に。

夜が更けても、妄想は終わらない。

mariはまだ、ホテルのシーツの上で脚を組み替えながら、ゆっくりと目を閉じている。
そして、誰にも見せないまま、静かに脚をほどいて——

俺の想像の中でだけ、彼女はパンチラのその先へ、踏み出していく。