「今日も、ちゃんとやれたかな……」
ふうっと息を吐きながら、ayakaはスマホを握ったままベッドに仰向けに寝転がった。
白いトップスがシワになるのも気にせず、スカートのまま、身体をぐにゃりと沈める。
慣れない東京の空気、初めての大きなセミナー、そして知らない土地のホテル。
緊張の糸が、ようやくほどけた瞬間だった。
部屋の中には、空調の静かな音だけが流れている。
テレビはつけていない。スマホの画面も、もう数分前から見つめてはいるけど、内容はほとんど頭に入っていない。
「明日も、早いんだったっけ……」
ベッドの上で脚をくずし、だらしなく体を伸ばす。
足先がシーツをなぞる感触に、ふと、ある映像が頭をよぎった。
──セミナーの講師。
黒いシャツに細身のパンツ、無駄のない所作。
モデルの髪を切る指先は、無言のままでも雄弁で、カットラインを整えるたびに、空気まで洗練されていくようだった。
何より、その人がモデルの顔を覗き込んだときに浮かべた、
あの一瞬の微笑みが――ずっと頭に残っていた。
「やだ、なに思い出してるの、私……」
誰もいない部屋。
声に出しても誰かに聞かれる心配もないはずなのに、ayakaは小さく笑って、少しだけ身体を丸めた。
でも、思考のスイッチはもう止まらなかった。
鏡越しに見た、あの講師の目線。
丁寧に髪をとかす指。
「いいですね、そのまま目を閉じてください」
穏やかに言われたその声の、距離感――
それらが、今この瞬間、まるで自分の身体に向けられているように錯覚してしまう。
静かに、そっと、ayakaの指が動き出す。
スカートの上から、自分の脚に触れてみる。
布越しの感触は、意外とあたたかく、心地よかった。
太ももの内側を、ゆっくりとなぞっていく。
その先へ進もうとするたびに、自分の呼吸が少しだけ深くなるのがわかる。
でも、服は脱がない。ただ、スカートの上から、自分の身体の反応を確かめるように――
「……なんか、変な感じ」
言葉にしてみると、それはやっぱり少しおかしな行動に思える。
でも、やめたくなかった。
この無音の部屋と、あたたかい指先と、思い出の中の彼の目線。
それらが重なったとき、自分の中の“なにか”が静かに溶けていくようだった。
指が、スカートの上から、少しだけ強く押し当てられる。
そこに、確かに“気持ちいい”という感覚がある。
強く触れたわけじゃないのに、身体ははっきりと応えてくれる。
知らないうちに、唇が少しだけ開き、細く息が漏れていた。
「こんなこと……東京に来てまで、何してるんだろ、私……」
自分でつぶやきながらも、指は止まらなかった。
むしろ、その羞恥がほんの少し、興奮を助長している。
枕元の明かりが、天井に向かって優しく照らしている。
その光の中で、ayakaの白いトップスが波のように揺れている。
首をそらし、視線を逸らしてみる。
でも、頭の中では彼の指先が、彼の声が、自分の中をなぞっていた。
「……はぁ……っ……」
小さく息を漏らしながら、ayakaは身体を丸める。
快感はまだ浅く、でも確かにそこにあって。
スカート越しのオナニーは、どこか無防備で、でも守られているような錯覚をもたらしていた。
静かな時間の中で、服の下の自分にだけ集中するひととき。
誰にも見せたことのない、触れ方。
誰にも教えたことのない、感じ方。
やがて、指先の動きがふと止まる。
ピークには達しなかった。
でも、それでよかった。
これは誰のためでもなく、自分の心と身体を確かめるための時間だったから。
ayakaは静かに呼吸を整えながら、ベッドに仰向けになった。
スカートの裾を整え、スマホの画面をもう一度見る。
講師の名前を検索するわけでもなく、ただ、次の投稿へと指を滑らせる。
けれど、彼女の身体には、まだ少し熱が残っていた。
そして、それが何よりの証だった。
今夜、彼女は服を着たまま、自分だけの欲望に触れた。
静かで、やさしくて、でもどこか切ない夜。
その記憶だけが、彼女の内側に、そっと残っていた。