[aoi 妄想#005] 専門学校職員の彼女が、メイド服に込めたもうひとつの願い

あの夜のことを、今でもはっきり覚えている。
専門学校の仕事を終え、駅前のカフェで偶然出会ったaoi。
同僚の愚痴をこぼしながらも、笑うときの目元が、
少しだけ寂しそうだった。

「たまにね、全然違う自分になりたくなるんです」
そう言って、カップの縁を指でなぞった。

後日、彼女の“もう一つの顔”を知った。
レンタルルームの中で、黒と白のメイド服を着た彼女が、
鏡の前で静かに息を整えていた。
その仕草に、日常では見せない柔らかさがあった。

「撮ってもいい?」と尋ねると、
aoiは少しだけ間を置いて頷いた。
「うん、ちゃんと合意してるから大丈夫」
その言葉が、夜の始まりの合図になった。

シャッターを切るたび、
部屋の空気がゆっくりと変わっていく。
布の擦れる音、柔らかな香水の匂い、
ライトの熱が肌に触れて、彼女の頬をほんのり染める。

ポーズを指示すると、aoiは微笑んで応じる。
「こんな感じ?」
その声に混ざる息遣いが、
耳の奥で溶けていくようだった。

真面目な職員の顔も、
SNSに投稿するモデルの顔も、
どちらも彼女自身なのだと、そのときわかった。

彼女がレンズを見つめる瞬間、
ただの被写体ではなく、
“誰かに見つけてほしい”ひとりの女性になる。

「この写真、あなたにだけ見せたい」
そう言ったaoiの声が、
小さく震えていた。

シャッター音が止まったあとも、
部屋の中にはまだ、
メイド服の香りと、彼女の余韻が残っていた。

白いフリルの袖口を整えながら、
aoiは小さく笑った。
「こうしてると、少しだけ自由になれる気がするんです」

その笑顔を見た瞬間、
“妄想”だと思っていたものが、
確かに存在する温度を帯びた。

あの夜の彼女を、僕は今でも思い出す。
静かな息と、瞳の奥に潜んでいた願いを。