あの日のことを、今でもはっきり覚えている。
honokaが、あのレンタルルームで“立っていた”光景を。
午後の光が白い壁を照らして、カーテンの影がゆらゆらと揺れていた。
honokaは窓際に立ち、鏡を見つめていた。
何も言わず、ただ姿勢を正して、足の位置を確かめるようにしている。
ブルマ姿にまだ慣れない彼女は、恥ずかしさと緊張をまとっていた。
「大丈夫です、見ないでくださいね」
そう笑って言いながらも、視線を完全に逸らすことはしなかった。
その表情の奥に、どこか“見られること”を受け入れているような色があった。
空気がやわらかく沈んでいく。
honokaの呼吸が少し早くなって、髪が頬に張りつく。
光が肩を滑り、背中を淡く照らす。
その静止のなかで、彼女は少しずつ、自分を解いていくように見えた。
僕は息を殺して見つめていた。
動かない彼女の輪郭が、かえって鮮明になる。
音もなく、体温だけが近づいてくる。
「もう少しだけ…見ててもいいですよ」
その一言が、静寂を破った。
honokaは視線を落とし、わずかに唇を噛んだ。
その仕草が、何よりも雄弁だった。
彼女の世界には、動きがない。
けれど、見ているこちらの心だけが騒がしく波打っていく。
そのギャップが、どうしようもなく官能的だった。
やがてhonokaはそっと目を閉じ、肩の力を抜いた。
その瞬間、空気がわずかに震えた。
何も起きていないのに、確かに“何か”が満たされた。
——動かない彼女が、一番いやらしい。
その言葉の意味を、あの部屋で知った気がする。