[nana 妄想#002] 出張中、服を着たままオナニー

nanaは、地方のアパレルメーカーでバイヤーとして働く25歳の女性。
今日は、年に数回ある東京出張の二日目だった。展示会での視察や仕入れ先との交渉を終え、彼女は昼休みにひとり、ホテルの部屋へ戻っていた。

ビジネスホテルの鍵を開け、誰もいない静けさにふっと息をつく。
カーテン越しに差し込む午後の光が、ベッドの白いシーツにやわらかい陰影を落としている。

「少しだけ……休も」

鞄を置き、シャワーも浴びずにそのままベッドに倒れ込む。
制服のように着慣れたボーダーのポロシャツとアイボリーのスカート。普段と変わらない服装のはずなのに、東京のこの部屋で着ていると、なぜかいつもと違う感覚があった。

スマホを見ようとして、やめた。
代わりに、今日の展示会で名刺を交換した男性の顔がふと浮かぶ。グレーのシャツに細身のスラックス。柔らかい声で「よかったら、また」と名刺を差し出してきた。

あの瞬間の、わずかな胸の高鳴り。
こんな感情、しばらく忘れていた。地元では仕事に追われ、恋愛の話も遠のいていた。

でも、東京という非日常の中では、心の奥の感情が、静かに目を覚ます。

(…何やってるんだろ、私)

誰にも聞かれない独り言を呟きながら、nanaはスカートの裾をぎゅっと握る。
目を閉じると、展示会でのあの人の声が、呼吸が、近づくような錯覚に包まれた。

そのまま、彼の声を思い出しながら、手がゆっくりと自分の身体へ向かう。
誰にも見られていない、でも、自分自身にも見せないような動作。

指先が、太ももをすべる。
布の上からそっとなぞる感触に、自分でも驚くほどの熱を感じてしまう。
音を立てないように、気持ちを抑え込むように。

(あの人が、もしこの部屋にいたら…)

思考と現実が入り混じる。
決して現実にはならない妄想だけれど、その妄想の中では、nanaはもう「いい子」を演じる必要がなかった。

裾を握る手が少し震える。
細く漏れる吐息。
その一つ一つが、東京という街にそっと溶けていくようだった。

ブラウスの内側、ブラの下。指が自分の輪郭をなぞるように動く。
ネイルに彩られた指先が、身体の奥の欲求を、ゆっくりと刺激する。
自分だけが知っている自分の敏感な場所。そこに触れた瞬間、nanaの身体はびくっと震えた。

目を閉じたまま、名刺を受け取ったあの瞬間がよみがえる。
まっすぐな視線、笑った口元、手の温度。
すべてが妄想かもしれない。でも、このひとときの中では、現実よりもずっと鮮やかだった。

静かに、けれど確かに、nanaの呼吸は速くなる。
何かを求めるように、でも言葉にできないまま、身体だけが応えていた。
スカートの中、布越しの刺激に背筋がぞくっと震える。

(だめ…こんなこと)

そう思いながらも、指は止まらなかった。
誰にも言えない、言いたくない。だけど、止められない。

やがて、静かな波のように、身体が内側から熱を帯びていく。
どこか遠くで、昼下がりの喧騒が聞こえる気がした。
それが現実を引き戻すのかと思いきや、nanaの意識はますます深く、妄想の中へ沈んでいった。

頬が紅潮する。唇がかすかに開く。
まるで、何かを求めるように。
でも、それは誰にも向けられない、ただ自分だけの秘密。

最後、nanaは小さく、声にならない吐息を漏らした。
それはどこか、切なく、あたたかい。
誰にも届かない、彼女だけの感情。

やがて、nanaはゆっくりと手を離した。
スカートをそっと直し、髪を整える。
鏡を見ると、いつもと変わらない自分がそこにいた。

(…大丈夫、バレてない)

そう言い聞かせるように微笑んで、彼女はベッドから立ち上がった。

出張は、まだあと一日続く。
仕事もある。新しい商談も。だけど、今だけは、自分の中に芽生えた何かを、大切にしていたかった。

東京の午後、
nanaの“止まっていた時間”は、静かに動き出していた。