[nana 妄想#003] 出張中、裸でオナニー

午後の展示会は、なぜか上の空だった。
名刺交換の数もそこそこに、彼とまた話すことばかり考えていた。
こんなこと、地元ではなかった。
誰かと出会い、心が揺れて、期待なんて抱いてしまうなんて。

午後3時すぎ。
「打ち上げまでまだ時間があるし、少し休もう」
nanaは、宿泊しているホテルへと戻った。

薄暗い廊下を抜けて、カードキーで部屋を開ける。
外の騒がしさが、ドアの内側でぴたりと消えた。
一人きりの空間。
なのに、胸の中はざわざわと波立っていた。

ベッドの上にバッグを投げ出し、制服のように整った服を脱ぐ。
キャミソール、スカート、下着——すべてを、音も立てずに。
エアコンの風が肌に触れる。
身体中が、やけに敏感になっている。

鏡の前を通りすぎると、自分の裸が映った。
照れくさくて、でもどこか嬉しくて、nanaはベッドの端に腰を下ろした。

きっかけは、ほんの小さな妄想だった。

さっきの彼が、笑って「似合ってますね」と言ってくれたときのこと。
あの声、あの目線。
もし、あのまま「二人だけで飲みませんか」なんて言われていたら——?

想像が広がるたびに、身体が熱を帯びていく。
胸をそっと撫で、指先をなぞらせる。
やがて手は、脚の間へと自然に動き出していた。

「……んっ」

誰にも聞かれないはずなのに、声がこぼれる。
静かな部屋のなか、nanaの息遣いだけが響いている。

ベッドの上、まっすぐ仰向けになり、目を閉じる。
頭の中には、彼の笑顔が浮かぶ。
唇が、指が、あの人のものだったら——。

腰が浮いて、背中が反る。
裸の身体がベッドにきしみ、シーツが肌にまとわりつく。

「あっ……だめ……」

指の動きが速くなる。
胸を押さえる手にも力が入る。
想像と快感が混ざり合って、どこかへ連れて行かれそうだった。

そして、ふっと、身体の芯が弾けた。

しばらく、そのまま動けなかった。
天井を見つめながら、乱れた呼吸を整える。

「何やってるんだろ、私……」

だけど、不思議と後悔はなかった。
素直な気持ちに従っただけ。
ずっと、誰かのために「いい子」でいようとした自分から、ほんの少し自由になれた気がした。

スマホが震えた。
彼から、LINEの通知。

《お店、駅近くのイタリアンになりました。無理せず、気軽に来てくださいね》

nanaは、微笑んだ。
そっと起き上がり、服を手に取る。
夕暮れに向けて、また街へ出る準備をしながら、彼の名刺を、もう一度だけ見つめた。

名前を呼ぶには、まだ早い。
でも、妄想の中なら、何度でも——。