午後の光が薄くカーテン越しに差し込むホテルの一室。
開演まで、まだ時間はある。
荷物を片付け、ベッドに腰を下ろすと、旅の緊張が少しずつほぐれていく。
窓の外には、都会の雑踏とビルの谷間に沈みゆく陽の色。
その眺めは彼女に、ほんの少しの孤独と、自由を同時に感じさせていた。
ベッドに背を預け、靴を脱ぎ、ワンピースの裾を指先でなぞる。
視線は天井に向けられているのに、心の奥では別の映像が流れ始める。
推しが舞台で見せる眼差し、低く響く声。
その記憶の断片が、胸の奥で熱を生み始めた。
「……あつい」
小さくつぶやき、rikoはワンピースのファスナーをゆっくりと下ろす。
肩から布が滑り落ちると、下着のストラップが現れ、
次の瞬間にはそれも外れて、白い肌が空気に触れた。
立ち上がることなく、彼女は静かに服を脱ぎ進めた。
やがてスカートも足元に落ち、ブラもパンティもベッドの端に置かれる。
部屋には裸のrikoだけが残った。
カーテンの隙間から差し込む光が、彼女の輪郭をやわらかく照らす。
首筋から胸元へと滑る陰影、ゆるやかなカーブを描く腰のライン。
すべてが、ため息を誘うほど美しい。
ベッドに横たわると、シーツの冷たさが背中を走り抜ける。
その感触さえ、今は心地いい。
胸の先がひやりとし、思わず肩をすくめる。
そして、右手がゆっくりと胸へ向かった。
指先がそっと触れた瞬間、かすかな吐息が漏れる。
軽くなぞるだけで、そこから甘い痺れが広がっていく。
左手は腹部を通って、太ももの内側へ。
肌と肌が触れ合うたび、鼓動が速まる。
目を閉じれば、そこには推しの姿がある。
舞台の上で見せた真剣な眼差し、
観客席に向けられた微笑み。
「もし、この距離で…」
そんなあり得ない想像が、指先の動きをさらに熱くさせる。
胸を愛撫する右手と、
下腹部へと降りていく左手。
やがて指先は柔らかな中心にたどり着き、
ゆっくりと小さな円を描き始めた。
「ん……」
息が詰まり、首がわずかに反る。
腰がシーツの上でわずかに浮き、脚が震える。
部屋は静まり返っている。
聞こえるのは、彼女の呼吸と、シーツがわずかに擦れる音だけ。
その静けさが、彼女の背徳感をかき立てる。
片膝を立て、さらに奥へと指を進める。
その動きに合わせて胸が上下し、汗がこめかみを伝う。
呼吸は浅く、時折、短い声が漏れる。
「…っあ……」
妄想の中で推しは、彼女を見下ろしている。
舞台の照明のような眼差しで、すべてを受け入れるように。
その幻影が、彼女をさらに深いところへ導く。
背筋に震えが走る。
指先の動きが速くなり、脚がシーツの上で絡まる。
胸の奥からせり上がる波が、もう抑えられない。
そして——
全身がふっと軽くなる瞬間、声にならない声が喉の奥でほどけた。
rikoはしばらく動けずに、天井を見つめていた。
胸はまだ上下し、指先には余韻が残っている。
汗ばむ肌に、冷たい空気が触れて心地いい。
やがて彼女はゆっくりと体を起こし、乱れた髪を整える。
床に落ちた服を手に取り、ひとつずつ身にまとっていく。
清楚なワンピースに袖を通すと、
さっきまで裸だった自分が嘘のように思えた。
鏡の前に立つと、そこにはいつものrikoがいた。
静かで、整った表情。
けれど、その奥には誰にも知られない熱が潜んでいる。
バッグを手に取り、ドアへ向かう。
舞台の開演まで、あと少し。
さっきまでの秘密を胸にしまい込み、
彼女は都会の夜へと歩き出した。