今日はいつもより少し大胆な気分だった。
制服に着替えるだけでは物足りない。
鏡の中でネイビーとブルーのチェック柄スカートを揺らしながら、ruriはゆっくりと微笑む。
胸元のリボンを整え、ローファーのかかとを鳴らすと、レンタルルームのドアを開けた。
廊下は静まり返っていた。
外の喧騒とは別世界のように、ビルの中は薄暗く、エアコンの低い音が響くだけ。
その静けさの中で、ruriのパンプスの音がコツコツと階段へと近づいていく。
歩くたびに、プリーツスカートがふわりと揺れ、ひざ上の肌にかすかに風が触れる。
その感触が、彼女の胸をじわりと熱くさせる。
階段の前で、ふと立ち止まる。
誰もいないはずなのに、なぜか背中に視線を感じるような気がした。
——もし、下から誰かが上がってきたら…。
想像するだけで、心臓が跳ねる。
ruriはそっとスカートの裾に手をかけ、ほんの少しだけ位置を直した。
それはまるで、“見えてしまってもいい”と誘うような仕草だった。
一段目を踏み出す。
スカートがわずかに舞い、太ももの奥の柔らかな部分が空気に触れる。
ゆっくりと二段、三段と上がるたび、制服のひだが揺れ、淡い影がちらりと覗く。
そのたびに、自分自身がその影を意識してしまう。
見られていないのに、見られている気がする。
その錯覚が、ruriの胸を高鳴らせた。
踊り場で立ち止まり、背後を振り返る。
やはり、誰もいない。
——でも、本当にそうだろうか。
少し開いたドアの向こうや、廊下の奥から、誰かが見ているかもしれない。
そう考えるだけで、頬が熱くなる。
再び階段を上がり始める。
今度は少しだけ歩幅を広げてみる。
プリーツの間から、淡い色の布がかすかに見え隠れする。
階段の下から見上げる視線が、もしあったら——全部見えてしまうかもしれない。
そう思うと、スカートを押さえたくなる。けれど、押さえない。
スリルの甘さが、全身を包み込んでいく。
最上段に着いたとき、胸の鼓動はいつもより早かった。
ただ階段を上がっただけ。
それなのに、制服の中は熱を帯び、呼吸がわずかに乱れている。
手すりにそっと手を置き、深呼吸をひとつ。
そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。
——やっぱり、制服を着ていると、私は少しだけ違う人になる。
ruriはそう思いながら、静かな廊下を歩き出した。
誰にも見られなかったのかもしれない。
けれど、見られてしまったかもしれない——その境目の感覚こそが、彼女を夢中にさせるのだった。