[ruri 妄想#008] 制服コスプレ、脱ぐときが一番さみしい

部屋の壁時計が、静かに2時間の終わりを告げていた。
その針の音は、まるで心の奥の余韻を急かすかのように、一定のリズムで響く。

今日も、この小さなレンタルルームは、ruriにとっての特別な舞台だった。
繁華街の片隅。人の流れから少し外れたビルの5階。
防音の効いた完全個室。外界から切り離された、時間の檻。
制服のブレザー、白いシャツ、プリーツスカート――
それらを身にまとうと、現実とは違う”誰か”に変わることができた。

さっきまでの2時間、ruriはその世界の中にいた。
スカートの裾を指でつまみ、鏡の前で小さく回ってみたり、
ボタンをひとつずつ外しながら、わざとゆっくりと肌を露わにしたり。
自分自身を撮るシャッター音が、心の奥をくすぐる。
ここでは誰も彼女を止めない。
誰かに見せるためじゃない。
ただ、自分のためだけに演じる――そんな時間。

だけど、終わりは突然やってくる。
更衣スペースの前で、制服姿の自分を映す姿見に視線を落とす。
「…そろそろ、戻らなきゃ」
その小さなつぶやきが、部屋の中で吸い込まれていく。

ブレザーを脱ぐと、ほんの少しの冷たい空気が肩を撫でた。
シャツのボタンを上から順に外していく。
生地の感触が肌から離れるたびに、
この非日常が指の間からこぼれ落ちていくような気がする。

下着姿になったruriは、スカートのファスナーをゆっくり下ろした。
足元へと滑り落ちた生地を拾い上げ、丁寧に畳む。
制服という仮面を外すたび、鏡の中には”ただの自分”が現れる。
その瞬間、胸の奥がほんの少しだけ締め付けられた。

「また、つまらない日常に戻るんだな…」

私服のワンピースに袖を通しながら、ruriは小さく息を吐いた。
外に出れば、繁華街の喧騒。
人混みに紛れ、誰も自分に気づかない日常の波。
けれど、この部屋にいる間だけは違った。
制服を着たruriは、現実の自分じゃない。
可愛さも、大胆さも、少しの背徳も――全部この空間に残していく。

着替え終わってバッグを肩に掛けたとき、
さっきまで自分の体温を吸っていた制服が、
畳まれたまま机の上で静かに横たわっていた。
その生地に触れると、まだほんのり温かい。
まるで、「まだここにいてもいいよ」と囁かれているようで、
手を離すのが惜しくなった。

でも、扉の向こうには現実が待っている。
名残惜しさを胸に押し込め、ruriは部屋の電気を消した。
薄暗い中で制服がぼんやりと浮かび上がる。
「また来るね」――
そう心の中で呟き、静かにドアを閉めた。

階段を降りると、外の空気が一気に肌を包む。
ネオンの灯り、行き交う人々、車の音。
この世界の中で、自分だけが小さな秘密を抱えている――
そんな感覚が、ruriの胸をほんの少し温めた。

制服を脱いだあとに残る温度は、まだ消えていない。
それは、次にこの部屋を訪れる日まで、ruriの中で静かに燃え続けるのだった。