[mari 妄想#003] 全部脱いで、誰にも見せない声を漏らす夜

mariは、名古屋の中小企業で働く26歳。
会社では「真面目で丁寧な子」と言われていて、髪も爪もきちんとしている。
けれど、SNSでは時折、自撮りや後ろ姿の写真をあげている。
そして、フォロワーの中のごく一部にだけ公開している“別アカウント”があることを、俺は偶然知ってしまった。

副業で、撮影モデルをしているらしい。
下着姿も、シャツから肩を出した写真もあった。
でも、どこか露骨すぎない。
リアルな、生活のにおいがする。
まるで、“誰かの恋人のプライベート”を覗いているような気分になる。

そして今夜。
彼女は東京のホテルに泊まっている。
SNSの投稿で、撮影前泊らしいことが匂わされていた。

撮影は明日。
今は、ひとりで部屋にいるはずだ。

白いシーツの上。
蛍光灯は消して、ベッドサイドのランプだけが灯っている。
そんな空間で、mariは——全部、脱いでいるのかもしれない。

シーンとした部屋。
マスクをしたまま、ブラウスのボタンを外していく。
カメラもスマホもオフのまま。
誰に見せるでもなく、自分だけの欲望に向き合う時間。

下着もすべて脱ぎ捨てて、ベッドに座り込む。
ゆっくりと足を崩して、背を丸めるように寝転ぶ。
そして、指先が身体を撫でていく。

シーツの感触と、指の温度と、自分の吐息。
すべてが重なって、徐々に熱が立ち上っていく。

彼女は、声を押し殺すようにして、でも確かに息を漏らしていた。
マスクがあるから、余計にこもった吐息が、いやらしく響く。
シーツが肌に貼りついていく。
脚を開いて、背中を反らす。
指が、より深くへ、より速くへと動いていく。

だけど、誰にも見せない。
どれだけ感じていても、声は小さく。
その快感は、彼女だけのもの。

いや、違う。
俺は——
なぜか、その部屋の空気を、感じてしまっている気がする。

“あの子が、全部脱いで、自分だけの声を漏らしている”

そんな妄想が現実みを帯びてくる。
彼女の息づかいが、耳元で聞こえてくるような気さえする。

本当に、あんな風に声を出すんだろうか。
マスクをしたまま、唇を震わせて、目を細めて。
……知りたくてたまらない。

でも、それは叶わない。
だって、これは——全部、俺の妄想なのだから。

しばらくして、mariは指の動きを止めた。
ベッドの上で全裸のまま、肩で息をしている。
脚を少しだけ閉じて、右腕で胸を隠す。
マスクの奥から、吐息だけが静かに漏れていた。

まるで、何かを抱きしめるように、自分の身体を丸める。

そして、ほんの少しだけ、笑ったような気がした。

「……やっぱり、私、変だな」

誰にも聞かれない独り言。
でも、その声を、俺は確かに聞いた気がしてしまう。

そんな夜が、彼女にあってもいいと思う。
誰にも見せない、声も出さない夜が。
だけど——その姿を“誰かに見せたい”と思う瞬間が、
mariにもあるのなら。

……その相手に、ほんの少しでも俺のことを思い浮かべてくれていたら。

それだけで、この妄想は、ただの妄想以上のものになる気がするんだ。