ベッドの上で、airiは制服姿のまま、スマホをいじっていた。
白いブラウスと、膝上までのチェックのスカート。高校生のときに着ていた制服を模したコスチュームだ。
顔にはマスク。ノーメイクでも少しだけ安心できる“仮面”。
「また、通知来てる…」
スクロールする指先が止まる。何気なく見ていたSNSのDM。
数日前にアップした制服コスプレの写真に、「可愛いね」「また見たい」といったメッセージが並んでいた。
その中に、ひとつだけ違うものがあった。
「この制服、airiちゃんにすごく似合ってる。
昔、こういう子がクラスにいたら…って妄想してた。」
それを読んだ瞬間、心の奥がじんわりと熱くなった。
なぜだろう。セクシーとか、可愛いとか、そういう言葉よりもずっと胸に残った。
「いたなぁ…そんな男子」
高校時代の教室。放課後の静かな時間。窓際の席で、誰にも見られないようにノートに絵を描いていた男子。
特に目立つわけじゃないけれど、たまに視線がぶつかると、そっと逸らすような優しい目をしていた。
(もしかして、あの人だったら…)
その想像がairiの脳裏を占めていく。
今日は、本来なら在宅勤務のはずだった。
でも「どうしても家じゃ集中できない」と言って、気分転換に近くのビジネスホテルを予約した。
本音を言えば、少しだけ逃げたかったのかもしれない。
上司の顔も、社内チャットの通知も。
最近ずっと、なにかに押し潰されそうで、気づけばホテルの予約サイトを開いていた。
チェックインして最初にしたのは、制服を取り出すことだった。
(……また、着ちゃった)
ベッドに腰を下ろすと、スカートが少しだけめくれた。
ふくらはぎから太ももへと続くラインが、蛍光灯の明かりに照らされている。
「……バカみたい」
そう呟きながらも、airiの指先は自分の脚をなぞる。
薄いタイツ越しに感じる指の感触。下着の上からでも、じんわりとした熱が広がっていく。
――私は、見られたいのかな。
かつてのクラスメイトのような目で。
私の“いい子”の仮面を見透かすような、あの視線で。
**
airiは起き上がり、鏡の前に立った。
制服姿の自分を見つめる。
「なんか、変な感じ…でも、ちょっと好きかも」
パリッとしたシャツの胸元に、うっすらと汗がにじむ。
スカートの裾をほんの少し持ち上げると、タイツ越しに浮かぶ自分の下着のラインが見えた。
(このまま…見せたら、どう思うかな)
スマホの前に座り、動画モードを立ち上げる。
カメラをベッドの向こうに置き、自分の体を映し出す。
仮に誰かが見ているとしたら。
あのメッセージをくれた彼が見ているとしたら。
(ちょっとだけ、見せたくなったの)
服の上から、そっと胸元に手をあてる。
スカートの上から、太ももをなぞる。
「……ん」
声が、こぼれそうになるのを堪える。
でも、息づかいはどんどん深くなっていく。
視線はカメラの向こうを見つめたまま。
そこには、あの“妄想してた”という彼がいるつもりで。
airiは、自分の存在を誰かに確かめてもらいたかったのかもしれない。
見せること。魅せること。
それは、かつての“いい子”の自分が決して許さなかったこと。
だけど今なら。
(今なら…ちょっとだけ、違う自分でもいい)
制服という仮面をかぶったまま。
でも、その奥では確かに、airi自身の欲望が疼いている。
ベッドに戻り、仰向けになったままスカートを指先でなぞる。
静かに、服の上から指を這わせて──
少しだけ、体を揺らすようにして。
カメラはその一部始終を静かに捉えていた。
**
その夜。
airiは撮影した動画を編集しながら、自分の表情を見つめた。
マスクで隠された目元は、どこかうっとりと熱を帯びていた。
何より、自分の動きが誰かの妄想の中で生きているかもしれないという事実が、なぜか嬉しかった。
「また…やってみようかな」
制服を脱ぐことは、まだできなかった。
でも、脱がないまま触れるその背徳感が、airiには心地よかった。
――今日の“見せたくなる気持ち”は、
たった一言のDMがくれた、小さなきっかけだった。