[riko 妄想#006] 屋上階段に腰掛け、スカートの奥を隠しきれずに

俺が目にしたのは、大学四年生のrikoだった。
もちろん、20歳を過ぎた大人の女性。
それでも、その横顔には少女めいたあどけなさが残っていて、妙に心を揺さぶられる。

俺はただ、通りすがりの中年男にすぎない。
でも、あの瞬間だけは彼女との距離が縮まったような錯覚を覚えた。

屋上へ続くコンクリートの階段。
rikoは腰を下ろし、少し遠くを見ていた。
俺との距離は十数歩。
声をかけることなどしない。
ただ、遠くからその姿を盗み見るだけ。

——これが最初の焦らしだ。
距離。
手を伸ばせば届きそうで、決して届かない。

風が吹くたびに、スカートの裾が浮かぶ。
その角度から見える脚は、きっと本人も気づいていない。
俺は息を止め、目をそらすふりをして、
しかし心の奥では「もっと」と願っていた。

——これが二つ目の焦らし。
角度。
隠すようで、隠しきれない。

rikoはなにも言わず、ただ街を見下ろしている。
沈黙が、逆に雄弁だった。
彼女の香りが風にのって届く気がした。
シャンプーの甘さと、ほんのりした汗の塩気。
鼻腔をくすぐり、体の奥に熱を残す。

——三つ目の焦らし。
沈黙。
言葉がないからこそ、想像は膨らみ続ける。

気がつけば、俺の鼓動は耳に響くほど大きくなっていた。
街のざわめきすら遠のき、視界には彼女の姿しか映らない。

やがて、風が一際強く吹いた。
スカートが大きく揺れて、俺の目に焼きつくような光景を残した。
それは一瞬だったが、余韻はしつこいほど続く。

彼女は振り返らない。
ただ、静かに腰掛けたまま。
その沈黙が俺には合図のように思えた。
「見てもいい」と、許されたような錯覚を与える。

もちろん、すべては俺の妄想。
けれど、その妄想こそが、現実の味気なさを甘美に変えてくれる。

俺は目を閉じて、その余韻を胸の奥で反芻した。
鼓動の速さが落ち着いていくにつれ、
ただの通りすがりに戻っていく自分を、少しだけ惜しく感じながら。