俺の名前は明かさない。ただの五十代の会社員だ。
街でふと見かけた彼女の姿を、心の中で膨らませるだけの男。
もちろん、この妄想に登場するrikoも、現実の誰とも関係はない。
——その夜、rikoはひとり、レンタルルームにいた。
卒論に追われる大学4年生。
机の上にはノートパソコンと、山積みの文献。
俺はその部屋の隅に忍び込んだような気持ちで、彼女を見守っていた。
最初はただ、背中越しに。
蛍光灯に照らされた首筋が白く浮かび、
彼女の髪が軽く揺れるたび、微かなシャンプーの香りが漂ってくる。
ふと体をひねってソファに腰を下ろす。
その瞬間、胸元のボタンがひとつ外れ、
わずかに覗いた肌が、俺の視界に切り込んでくる。
視線をそらそうとしても、どうしても吸い寄せられてしまう。
何も語らないまま、彼女は裾を気にせず足を組む。
その仕草は、まるで「見てもいい」と告げているかのように緩やかで、
俺の鼓動だけが部屋の静けさを乱していく。
「……ここにいるの、知ってるんでしょ?」
そう言った気がした。
もちろん実際には声はない。
けれどその視線が、確かに俺を捉えている気がする。
彼女の頬に赤みが差し、吐息が少し荒くなる。
それは拒絶ではなく、むしろ受け入れの証のように見えた。
俺の想像の中で、rikoはもう恥じらいを置き去りにしている。
ソファに沈む身体の動き、
指先が自分の膝をなぞる仕草、
わずかな布擦れの音。
五感の全てが彼女に絡め取られ、俺は抜け出せなくなっていた。
カーテンの外では夜の街がざわめいている。
だが、この小さな部屋だけは時間が止まったように静かだ。
静けさがかえって熱を帯び、
俺は彼女とその部屋にすっかり囚われてしまう。
最後に彼女は目を閉じ、長く息を吐いた。
その仕草は、何かを終えた安堵にも、始まりの予感にも見える。
俺の心臓はまだ強く打ち、
その余韻だけが、胸の奥にいつまでも残り続けた。