俺が出会ったのは、22歳の学生、hina。
彼女は就職を控えた最後の学生生活で、
ゼミの課題として「自分を表現する映像作品」を作っていた。
その題材として選んだのが、OLになりきって、無人のビルを歩くという設定。
白い蛍光灯に照らされた廊下を、
パンプスの音を響かせながら歩く。
俺はその様子を目の前で見ているように感じる。
わざと足音を大きめに刻んだり、
髪を耳にかける指先をゆっくりと動かしたり。
彼女は「見られる」感覚を、あえて楽しんでいるのだろう。
ふと立ち止まり、壁に片手を預ける。
スカートの裾がわずかに揺れて、
その奥に隠された体温の気配を想像させる。
俺の耳には、彼女の小さな吐息まで届く気がした。
香水の柔らかな甘さと、洗いたての布地の匂い。
その混ざり合う香りが、この無機質な空間に
妙な官能を生み出していた。
彼女はカメラのレンズに視線を投げ、
ほんの少し口元をゆるめて微笑む。
「こういう自分も、見せていいのかな」
そんな声なき合図が、俺に届いた気がする。
もちろん、それは俺の勝手な解釈だ。
だが、その瞬間、学生としてのhinaと、
これから社会人になるhinaとが重なり、
新しい大人の姿を手探りで確かめているように思えた。
俺はその探る仕草に、息をのむ。
もし、さらに深く踏み込むなら、
彼女はどんな表情を見せてくれるのだろう。
そして俺は、それを想像するだけで満たされる。