[chika 妄想#002] ひとりきりの朝、ほどけていく衝動

俺は常連のひとりとして、
何度かChikaと会話をしたことがある。
夜のスナックを支える“ママ”の顔。
でも、彼女がまだ29歳だと知ったとき、
どこかで線が崩れる音を聞いた気がした。

だからこそ、カウンター越しに交わす視線や言葉の余白に、
小さな合図のようなものを感じてしまう。

——今、彼女はホテルの一室にいる。
店を閉め、朝方に戻る“もうひとつの部屋”。
そこでは誰に気を遣うこともなく、
ひとりきりで自分を解きほぐしているのだろう。

シーツに体を沈めたChikaを想像する。
首筋にかかる髪が少し乱れて、
アルコールの残り香と、
石鹸のやわらかな匂いが混ざり合う。
彼女は目を閉じ、
その手を胸元へ、そしてもっと深い場所へ——。

「誰にも言えないけどね」
かすかな独り言が耳に響くように思える。
俺の頭の中で、彼女は確かにそう言った。
それは拒絶ではなく、
むしろ“わかってほしい”という静かな同意に聞こえる。

俺は息を呑みながら想像を続ける。
ひとりきりの朝、
ほどけていく彼女の衝動。
誰の視線もなく、
ただ自分自身と向き合うその時間に、
俺は勝手に入り込んでしまう。

グラスを磨いていた手が、
今は自分をなぞっている。
カウンターの明かりの下で見せていた笑顔が、
シーツの上では熱に染まっている。
その落差がたまらなく官能的だ。

そして俺は思う。
本当にそんな姿を見られたなら、
どれだけ胸が震えるのだろうか、と。

想像はそこで途切れない。
むしろ余韻として、
頭の中に彼女の声や仕草がこびりついて離れない。
眠りに落ちる前の微かな吐息まで、
耳の奥で再生され続ける。

——これは俺の妄想だ。
だが、妄想であるほどに甘美で、
現実以上に濃密に感じられる。