俺は50を過ぎた平凡な会社員だ。
通勤途中、専門学校の前を通るのが、密かな楽しみになっている。
受付にいるaoi——26歳、あの職員の存在を知ってからだ。
いつも落ち着いた笑顔で、学生や来客に対応している。
清楚なスーツの裾がふと揺れるたび、
その下に隠された“もう一つの顔”を想像してしまう。
その朝、偶然ビルの近くで彼女を見かけた。
いつもより柔らかい表情で、スマホを見つめている。
肩にかかる髪が、風で少し乱れた。
彼女はそれを片手で整え、唇の端を少しだけ緩めた。
その仕草が、やけに艶やかに見えた。
きっと、撮影前の彼女だったのだろう。
裏アカウントで見かけた“aoi”の姿と重なった。
レンタルルームの白い壁。
鏡の前で、彼女は制服の襟を少しだけ開き、
光を浴びるように肩を見せている。
画面越しに見えるその瞳には、
普段の職員とはまるで違う静かな熱があった。
「これくらいなら、誰にも迷惑かけてないし」
そんな言葉が聞こえてくるようだった。
同意の上で、自分を解放しているaoi。
その潔さに、息を飲んだ。
想像の中で、彼女は一枚ずつ“社会の衣”を脱ぎ、
ただの26歳の女性としてそこにいる。
頬に当たる光、肌にかかる影、
シャッター音とともに生まれる、ひとつの呼吸。
俺はただ、その瞬間を覗き見ているだけだ。
触れることも、声をかけることもない。
けれど、彼女が無防備になる朝の一瞬、
その美しさを心の奥に刻みつけてしまう。