僕は、aoiを初めて見たときのことを、いまも鮮明に覚えている。
関西の医療系専門学校で働く26歳の職員。
学生たちの前ではいつも丁寧で、控えめで、
誰もが「真面目な人」と口をそろえる。
だが、僕が気づいたのは、その奥に潜む微かな揺らぎだった。
コピー機の光に照らされた横顔、
書類を差し出すときに香る柔らかなシャンプー。
近づくたびに、胸の奥で何かがざわついた。
そして後に知る。
aoiには、もうひとつの顔があることを。
それは、レンタルルームでのコスプレ撮影モデル。
セーラー服やブレザーに身を包み、
自撮りした写真を裏アカウントに投稿するという秘密。
その世界に身を置くことも、自らの意志で選んでいる。
「誰かに見られたい」という気持ちを、
彼女は正直に受け入れているのだろう。
その日の投稿。
映っていたのは、職場での制服姿に似た紺のスカート。
脚を少し崩してソファに座るaoiの横顔。
光が柔らかく頬を撫で、
目線の先には、スマホのレンズがあった。
画面越しに感じる静かな熱。
スカートの奥にふと見えた白が、
意図的なのか偶然なのか、わからない。
けれど、その曖昧さが、
彼女をより艶やかにしていた。
——“見られることで、満たされる”。
そんな言葉が頭に浮かんだ瞬間、
僕の指先は、無意識にスマホを強く握っていた。
もし、あの部屋に僕がいたら。
彼女の呼吸のリズムを感じながら、
そっとレンズ越しにその瞬間を見届けていたかもしれない。
aoiの頬に流れる一筋の汗、
ゆるむ指先、閉じかけたまつげ。
彼女は、自分の中の“解放”を見つめていたのだと思う。
誰にも見せられない世界で、
自分だけの快楽を確かめるように。