あの午後のことを、今でも鮮明に思い出す。
ビルのエントランスで見かけたaoi——
胸の職員証には「医療専門学校」と印字されていた。
社会人として落ち着いた雰囲気。
でも、目の奥にほんの一瞬、揺れる光を見た気がした。
あとで知った。
彼女は二十六歳、すべての行為に同意のうえで、
副業としてコスプレ撮影をしている。
セーラー服、ブレザー、メイド服——
どれも彼女が選んだ“もう一つの顔”。
白いブラウスを整えながら、
レンタルルームの小さな鏡に映る自分を見つめる。
リングライトが彼女の頬を淡く照らす。
光に溶けるような肌の質感に、
僕の喉がかすかに鳴った。
シャッター音の合間に、
指先が膝をなぞるように止まる。
小さな吐息が部屋に広がる。
香りは洗い立ての柔軟剤。
それが、制服の布地に残っていた。
aoiは、そっとスカートを整えた。
でも、その仕草が、
かえってすべてを見せてしまうようで。
彼女自身も、そのことに気づいていた。
唇がわずかに笑った。
「このままで、いいよね」
そんな小さな声が漏れた。
合意の言葉として、そして、自分への許しとして。
僕は、その瞬間に息を飲んだ。
真面目な職員の顔の裏にある、
誰にも見せない“オフの彼女”。
それを想像するだけで、
午後の時間がゆっくりと溶けていく。
もし、あのレンタルルームの静けさの中で、
aoiが次のシャッターを押したなら——
その音に、僕の鼓動も重なっていただろう。