彼女を初めて見たのは、専門学校の受付だった。
医療系の校舎の一角で、白いカウンター越しに微笑んでいた。
あの落ち着いた声と、視線を外すときの照れたような仕草が忘れられなかった。
仕事を終えたあと、彼女は誰にも知られずに別の顔を持っていた。
その夜、偶然ネットで見つけた裏アカウント。
そこに映るのは、あのaoiがメイド服を纏って座る姿だった。
黒いリボン、白いフリル。
普段の清楚な印象とはまるで違う。
その“裏”の彼女を見てしまった瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
——同じ世界にいたい。
——あの静けさの中に入り込みたい。
想像の中で、俺はそっとその部屋を覗き込む。
柔らかな光の中、aoiは撮影を終えたあと、カメラを切っていた。
誰に見せるでもない、オフの表情。
その頬にはうっすらと紅が残り、唇が微かに開いている。
「今日はもう終わり…」
そう呟いたあと、ソファに身を預ける。
黒いスカートがふわりと広がり、
レースの袖から覗く手首が、かすかに震えていた。
俺は想像の中で彼女に近づく。
「少しだけ…見せてくれる?」
そう言うと、aoiは小さく頷いた。合意の気配。
視線が合った瞬間、互いに息を潜めた。
その距離に触れるような空気が満ちていく。
甘い香りが漂い、彼女の頬を撫でるように流れる。
メイド服の襟元に指を添えると、布の温度が伝わってくる。
彼女は静かに目を閉じ、吐息をこぼした。
まるで「このまま、少しだけ」と言っているように。
胸の奥に熱が溶けていく。
誰も知らない、二人だけの午後。
それは現実よりも確かな“妄想の手触り”だった。
そして俺は、そっと目を開ける。
そこにはもう誰もいない。
ただ、スマホの画面に映るaoiの笑顔だけが残っていた。