俺が最初に彼女を見たのは、駅前のモデルルーム前だった。
小柄で落ち着いた雰囲気、けれど指先の動きには妙な色気がある。
名前はreira。23歳。不動産会社で内見アシスタントをしているという。
その日、内見が終わって客が帰ると、部屋の中には彼女ひとり。
テーブルの上には鍵束、スマホは通知を切って伏せてある。
午後の光が白いニットを透かして、柔らかな輪郭を描いていた。
「ポスター撮影の衣装、ちょっと試してみようかな」
そうつぶやいた声が、思いのほか甘く響く。
黒いスカートの裾を指先で整えながら、
reiraは灰色のソファに腰を下ろした。
そのまま背を預けて、深く息を吐く。
ふわりとした髪が頬に触れ、光を反射して揺れた。
彼女の周りだけ時間がゆっくり流れているようだった。
「こういうの、どうかな…」
ベストのボタンをひとつ外し、鏡代わりにスマホの画面を覗く。
その瞬間、表情がほんの少し変わった。
柔らかさと、確かな自信が混ざるような、あの一瞬。
俺は、想像の中でその空気に触れている。
部屋の中は、まるで彼女だけの小さな舞台だ。
見えない観客に向かって、彼女は服を選び、ポーズを変える。
その仕草があまりにも自然で、そして艶やかだった。
「このニット、やっぱり好きだな」
彼女は袖を伸ばし、指先で糸の感触を確かめる。
光の粒が、腕に沿って滑り落ちる。
その手の動きに、わずかに息を呑む。
想像の中の俺は、ただ見ているだけ。
でも、彼女の吐息や瞬きの音までもが、すぐそばで聞こえるように感じる。
それほどに、静かな熱を帯びた時間。
やがて、reiraはスマホを膝の上に置き、そっと目を閉じた。
「今日は、このままでいいや」
その言葉には、満ち足りた余韻があった。
午後の光がカーテン越しに滲んで、彼女の横顔をやわらかく包む。
その姿を想うたびに、俺の胸の奥で何かが静かに疼く。
あの灰色のソファは、彼女にとって舞台であり、秘密の場所でもある。
もしあの時、ドアを開けてしまっていたら——
彼女は、どんな表情を見せてくれただろう。