[reira 妄想#006] 歩幅に合わせて、制服が揺れる

あの午後、モデルルームの前を通ったとき、
静かな気配の中に、誰かの気配を感じた。
後から知った——あの部屋には、23歳のreiraがいたらしい。
不動産の内見アシスタント。

白ニットにベスト、黒のタイトスカート。
社内ポスター用の衣装テストという名目で、
彼女はひとり、その格好のまま待機していた。

鍵の束をテーブルに置いた音が、部屋の空気を切り替える。
通知をオフにしたスマホの画面は静かで、
その沈黙が彼女を包む。

「ちょっとだけ、雰囲気見てみようかな」
鏡に映る自分へ、reiraは小さくつぶやいた。
自分に許しを与えるような声。

裾を指先で整えながら、スカートの生地を確かめる。
その仕草に、ささやかな自覚が宿る。
いつもより背筋を伸ばし、足元を確かめる。
ベストのボタンを軽く押さえると、白ニット越しに温もりが伝わる。

制服という檻が、少しずつ彼女の味方に変わっていく。
誰にも見られない舞台。
けれど、もし誰かがこの瞬間を覗いていたら——
彼女は気づくだろうか。

鏡の前で一歩、また一歩。
歩幅に合わせて制服が揺れるたび、
空気が柔らかく波打つように見えた。
スカートの裾が、ふわりと浮く。
見えそうで見えない、その一瞬の緊張が美しい。

手首の時計が、午後の光を反射してきらりと光る。
ほんのり汗ばんだ首筋が、その光を受けて透ける。
reiraは息を整え、鏡越しに微笑む。

「……なんか、ちょっとドキドキするね」

その言葉が、静かな部屋に溶けていく。
まるで誰かと会話しているように。
鍵の束を拾い上げ、軽く鳴らすと、
その音が現実への合図のように響く。

でも、もう遅い。
彼女の中には、確かに“別の自分”が目を覚ましていた。

スカートが揺れるたび、心の奥の小さな灯りが滲む。
その光景を思い浮かべるだけで、息が浅くなる。

そして、想像の中で、彼女は振り返る。
視線が交わるわけでもないのに、
どこかで確かに、こちらを見たような気がした。