[reira 妄想#012] 私服に着替えて、日常へ

彼女——reiraは23歳。
不動産の内見アシスタントとして働く社会人だ。

モデルルームでの待機中、
僕は偶然、ガラス越しに彼女を見つけた。
制服姿で資料を整える仕草が、妙に丁寧で、
その奥に隠された彼女自身の時間があるように思えた。

撮影用の衣装テストをしているらしく、
白いニットにベージュのベスト、
小さなピアスが光を受けて揺れていた。
その一つひとつが、日常と非日常の境目を曖昧にしていく。

「誰にも見られてないですよね」
そんな独り言をこぼすように、彼女は笑った。
その声がやけに耳に残った。
合間に流れる沈黙が、
部屋の空気を少しずつ濃くしていく。

テーブルの上の鍵束が金属音を立てるたび、
彼女の指先がそれを拾い上げる。
指の節が小さく光り、
その動きに合わせて僕の鼓動もわずかに高鳴る。

「こういうときだけ、自由になれる気がするんです」
reiraはそう言って、
ニットの袖を軽く整えながら、鏡の中の自分を見つめた。
その横顔は、誰よりも強く、そして儚かった。

僕は息を潜め、
彼女の仕草一つひとつを目に焼きつける。
彼女の世界に踏み込むことはない。
ただ、その“瞬間”だけを見届けたかった。

照明が落とされ、
白いニットが影に沈む。
それでも、瞼の裏には彼女の姿が残る。
手首を動かすたびに香るシャンプーの匂い、
衣擦れの音が微かに混じる。

やがて彼女は名札を外し、
ベストを畳んで鞄にしまう。
制服から私服へ。
そのたった数分の変化が、
どうしようもなく“現実”を感じさせる。

ドアの向こうに出ていく彼女は、
もういつものreiraだ。
ただの社員、ただの若い女性。
それでも僕の心のどこかで、
あの部屋の中の彼女がまだ息づいている気がしてならない。

——そして、
今日もまた彼女は日常へ戻っていく。
それが、少し寂しくて、美しい。