湯上がりの体を、薄い浴衣の布が包んでいた。
yunaは古民家の脱衣所で、少しだけ乱れた帯を整えながら、
扉の向こうに“あの人”の気配を思い描いていた。
練習で遅くなった仲間たちはまだ戻らない。
静まり返った廊下の奥から、木が軋む音が一度だけ響く。
その音に、yunaは小さく息を呑んだ。
「……来てくれたの?」
自分でも気づかぬほど小さな声だった。
浴衣の襟を指先でつまみ、少しだけ開く。
空気が触れた肌が、ひやりと震える。
その瞬間、心臓の音が耳の奥で強く響いた。
あの人と過ごした夜のことを思い出す。
「次に会う時は、きっともっと近くにいる」と、
そう言って笑ってくれたあの横顔。
その記憶が蘇るたび、胸の奥が熱くなる。
自分でも抑えられないほど、あの温度が恋しい。
扉の向こうに、まだ誰もいない。
けれど、yunaの中ではもうその人の気配が確かに在る。
見えないけれど、確かに感じる——そんな錯覚。
湯気の残る畳に座り、そっと目を閉じる。
もし、今この扉がゆっくりと開いたら。
どんな言葉を交わすだろう。
どんな表情で、視線を返すだろう。
そして、その沈黙の中で交わる呼吸の温度に、
互いの想いが滲み出していくのを、ただ感じていたい。
やがて、遠くで足音がした。
それだけで、yunaの肩がわずかに跳ねた。
唇がわずかに開く。
でも言葉にはならない。
静かに襖を見つめるその瞳には、
“待っている”という想いがはっきりと宿っていた。
誰もいない夜の和室で、
yunaは扉の向こうの“あの人”を想いながら、
そっと息を吐いた。
その吐息が、灯りの中で溶けていった。