[yuna 妄想#008] 脱衣のあと、扉の向こうに想う人

湯上がりの体を、薄い浴衣の布が包んでいた。
yunaは古民家の脱衣所で、少しだけ乱れた帯を整えながら、
扉の向こうに“あの人”の気配を思い描いていた。

練習で遅くなった仲間たちはまだ戻らない。
静まり返った廊下の奥から、木が軋む音が一度だけ響く。
その音に、yunaは小さく息を呑んだ。

「……来てくれたの?」
自分でも気づかぬほど小さな声だった。

浴衣の襟を指先でつまみ、少しだけ開く。
空気が触れた肌が、ひやりと震える。
その瞬間、心臓の音が耳の奥で強く響いた。

あの人と過ごした夜のことを思い出す。
「次に会う時は、きっともっと近くにいる」と、
そう言って笑ってくれたあの横顔。

その記憶が蘇るたび、胸の奥が熱くなる。
自分でも抑えられないほど、あの温度が恋しい。

扉の向こうに、まだ誰もいない。
けれど、yunaの中ではもうその人の気配が確かに在る。
見えないけれど、確かに感じる——そんな錯覚。

湯気の残る畳に座り、そっと目を閉じる。
もし、今この扉がゆっくりと開いたら。
どんな言葉を交わすだろう。
どんな表情で、視線を返すだろう。

そして、その沈黙の中で交わる呼吸の温度に、
互いの想いが滲み出していくのを、ただ感じていたい。

やがて、遠くで足音がした。
それだけで、yunaの肩がわずかに跳ねた。
唇がわずかに開く。
でも言葉にはならない。

静かに襖を見つめるその瞳には、
“待っている”という想いがはっきりと宿っていた。

誰もいない夜の和室で、
yunaは扉の向こうの“あの人”を想いながら、
そっと息を吐いた。
その吐息が、灯りの中で溶けていった。