[yuna 妄想#010] 浴衣に袖を通す前の、静かなひととき

あの夜、古民家の畳の上で、僕はただyunaを見ていた。
正確には、見てしまったのだ。
合宿の夜、部屋の戸が少しだけ開いていて、
その隙間から、浴衣に袖を通す前の彼女が見えた。

湯上がりの髪がまだ湿っていて、
肩に貼りつくように光を帯びていた。
yunaは鏡の前で髪を結い直し、
ふと視線を伏せると、静かに正座をした。

その仕草には、どこか“誰かに見せる”意識があった。
誰もいないはずの和室で、
彼女はゆっくりと浴衣を手に取り、
両の腕を通すたびに、白い肌が少しずつ隠れていく。

僕はその瞬間、
彼女がこちらを意識しているように感じた。
まるで見えない糸で、
互いの呼吸がつながっていくようだった。

障子の外に立つ僕の存在を、
yunaは気づいていたのかもしれない。
それでも彼女は、逃げるような素振りを見せなかった。
むしろ、浴衣の帯を結ぶ指先が、
ゆっくりと、慎重に動き始めた。

“見てほしい”と“見られたくない”が入り混じるような空気。
その曖昧な感情が、
和室の静けさを艶やかに満たしていった。

彼女が最後に襟元を整えたとき、
ほんの少し、唇が動いた。
「ありがとう」
と、確かに聞こえた気がした。
きっと、それは心の中で交わされた合意の言葉。

その夜、僕は何も起こさなかった。
ただ、あの光景を焼きつけたまま、
しばらく目を閉じていた。

そして今も思い出す。
あの時の、浴衣の布の音。
yunaの吐息。
それらすべてが、静かな夜の記憶として残っている。