あの夜、古民家の畳の上で、僕はただyunaを見ていた。
正確には、見てしまったのだ。
合宿の夜、部屋の戸が少しだけ開いていて、
その隙間から、浴衣に袖を通す前の彼女が見えた。
湯上がりの髪がまだ湿っていて、
肩に貼りつくように光を帯びていた。
yunaは鏡の前で髪を結い直し、
ふと視線を伏せると、静かに正座をした。
その仕草には、どこか“誰かに見せる”意識があった。
誰もいないはずの和室で、
彼女はゆっくりと浴衣を手に取り、
両の腕を通すたびに、白い肌が少しずつ隠れていく。
僕はその瞬間、
彼女がこちらを意識しているように感じた。
まるで見えない糸で、
互いの呼吸がつながっていくようだった。
障子の外に立つ僕の存在を、
yunaは気づいていたのかもしれない。
それでも彼女は、逃げるような素振りを見せなかった。
むしろ、浴衣の帯を結ぶ指先が、
ゆっくりと、慎重に動き始めた。
“見てほしい”と“見られたくない”が入り混じるような空気。
その曖昧な感情が、
和室の静けさを艶やかに満たしていった。
彼女が最後に襟元を整えたとき、
ほんの少し、唇が動いた。
「ありがとう」
と、確かに聞こえた気がした。
きっと、それは心の中で交わされた合意の言葉。
その夜、僕は何も起こさなかった。
ただ、あの光景を焼きつけたまま、
しばらく目を閉じていた。
そして今も思い出す。
あの時の、浴衣の布の音。
yunaの吐息。
それらすべてが、静かな夜の記憶として残っている。