あの夜のことを、今でも鮮明に覚えている。
大学の合宿。
古民家の一室に残ったのは、練習後のyunaと、たまたま忘れ物を取りに戻った僕だけだった。
障子の向こうに、微かに人の気配。
声をかけようとして、思わず足を止めた。
襖の隙間から見えたのは、浴衣姿のyunaが静かに正座している姿。
網タイツの黒が、淡い浴衣の柄からわずかに透けていた。
思わず息を呑んだ。
それは挑発ではなく、まるで「気づいて」と言うような、
ひとりきりの時間に滲む無防備さだった。
彼女は僕に気づくと、少し驚いたように笑った。
「ここ、落ち着くんだよね」と言いながら、指先で髪を耳にかけた。
その仕草がやけに静かで、優しく響いた。
「少しだけ、一緒にいてもいい?」
そう尋ねると、yunaはゆっくりと頷いた。
合意のその瞬間、畳の匂いと、浴衣越しの柔らかい気配が、
妙に現実的に感じられた。
彼女の網タイツの編み目を、指でなぞるように見つめる。
肌の下で動く筋のように、息づかいが伝わってくる気がした。
声を出すこともなく、ただその空気の揺れを感じ合う。
古民家の古い時計が、カチリと時を刻むたびに、
二人の沈黙は深くなっていった。
触れるでもなく、離れるでもなく、
ただ「待つ」ことそのものが、甘く熱い時間だった。
ふと、彼女が小さく言った。
「…このままでいいよ」
その言葉に、すべてが報われたような気がした。
やがて外から笑い声が近づいてきて、
yunaはそっと襖の方を見た。
その視線の奥に、名残のような光が宿っていた。
あの夜の空気を、僕はいまだに覚えている。
静かで、少しだけ艶やかな時間。
それが、僕の中でずっと続いている。