俺は、ただの50代の会社員だ。
honokaも24歳の大人の女性だ。
話しかけることもできないような、
ごく普通のすれ違いの中で、
勝手に膨らむだけの中年男の妄想——それだけだ。
honokaがレンタルルームに来るのを見かけると、
胸の奥がふっと熱くなる。
彼女が無表情で鍵を受け取るとき、
手首の細い骨が一瞬だけ光に浮かぶ。
それだけで、心臓が小さく跳ねる。
「この部屋、落ち着くんです」
彼女がそう言っていたのを耳にしたことがある。
その声音は柔らかかった。
まるで、自分の中の乱れをそっと撫でて整えるみたいに。
扉が閉まると、
彼女はひとりきりの空間で、
制服を身につけ始める。
その行為に、もちろん意味なんてない。
ただの習慣か、就活用か。
けれど俺の想像は、そこから勝手に転がり出す。
ブラウスの袖に腕を通すとき、
ふわりと生地が肩に触れ、
honokaの呼吸がほんの少しだけ深くなる。
そんな「息の変わり目」を見てしまった気がして、
身体の奥がじんと熱くなる。
彼女は何もしていない。
ただ服を着ているだけだ。
でも、その“ただ”の中に、
言葉にはならない合図があるように思えてしまう。
大人同士が、互いに目を合わせなくても、
“拒まれていない”とわかるような、
そんな柔らかい肯定の気配。
スカートのホックを留める小さな音。
指先が生地をわずかにつまむ仕草。
髪をまとめ直すとき、
首筋に浮かぶ淡い影。
そうした一つひとつが、
俺の中の妄想をゆっくり温めていく。
honokaは自分の世界に没頭しているだけだ。
けれど大人同士であれば、
その姿を想像する自由くらいは、許される気がする。
俺の中で、
彼女の仕草は徐々に濃度を増していく。
制服の合わせ目がふと揺れた瞬間、
胸の奥に溜まっていたものがふっとこぼれ落ちるような感覚が走る。
やがて彼女は鏡を見て、
自分の姿を確かめる。
ほんの少し、表情がほどける。
その緩み方が、どうしようもなく艶っぽい。
まるで、
「これでいいですよ」
と言われたような、
そんな甘い肯定に触れた気がして、
体温が静かに上がっていく。
クライマックスのような高鳴りは、
突然ではなく、
じわりと胸の奥から満ちていった。
制服の布が揺れ、
honokaが小さく息をついだ。
その瞬間、
俺の中で何かが静かに弾ける。
余韻だけが長く残り、
彼女の姿が霞のように頭から離れない——。