作家の原稿が一向に進まないまま、
俺は隣の部屋の静けさを聞きながら、
和室の障子越しに漏れてくる光をぼんやり眺めていた。
ふと視線を横に向けると、
布団の上にいるmei(26)がスマホを両手で持ち、
前髪を指で払うようにして小さな息を吐く。
その仕草が、妙に胸の奥を揺らしてくる。
「少し、待ってますね」
そう笑ってくれたときの柔らかい声が、まだ耳に残っていた。
合意のような、安心させるようなその言葉が、
こちらの想像の背中をそっと押してしまう。
和室の空気は少し湿って、畳の香りが濃い。
meiが膝を立てるたび、スカートの裾がふわりと動き、
その奥の明るい布がちらりと光を返した。
指先でスマホを滑らせる音が、やけに鮮明に響く。
俺はただ、その光景を胸の中だけで味わい、
決して踏み込まないと決めていた。
けれど、meiが布団へ軽く体を預け、
ほんの少しだけ足の角度を変えた瞬間——
ふと目に入った淡い色に、
心臓の動きが一拍だけ強くなる。
「あ…ごめんなさい、ちょっと疲れちゃって」
彼女はそう言って、微笑みを添えた。
そのやさしい気遣いが、
まるで“許された”ような温度を帯びて胸の奥に広がる。
表情から滲むわずかな火照り。
肩に落ちる髪が畳に触れて、かすかな音を立てる。
和室の光が彼女の素肌の一部をやわらかく照らし、
その境界だけが妙に鮮明に見えた。
meiは布団の上でスマホを握りしめたまま、
ときどき画面を追う目がゆっくり揺れる。
そのまばたきのリズムが、
こちらの呼吸と重なるように思えてしまう。
「原稿、終わったら呼んでくださいね。
ちゃんと付き合いますから」
その一言が、和室の静けさよりずっと深く沁みた。
軽い約束のはずなのに、
まるで内側まで柔らかく触れられたような感覚が残る。
布団の上で無防備に揺れるスカートの影、
meiの呼吸が生むわずかな空気のうねり、
指先の動きが作る音。
そのどれもが、胸の底に溶けていく。
やがて、胸の奥で高まった熱が
静かな余韻へと変わる。
彼女の姿を思い返すだけで、
続きを求めてしまうような甘い疼きが残った。