旅館の静かな午後、隣の部屋では担当作家が原稿に向かっている。
シャワーを浴びたあとの湿り気をまとった彼女が、
浴衣姿で布団にそっと腰を下ろす姿を思い出すたび、
胸のどこかがじわりと熱くなる。
帯はゆるく結ばれ、
指先がそこに軽く触れるたび、微かな布の音が和室に溶けていく。
甘い香り——石鹸がまだ肌に残っているのだろう。
ふわりと漂うその匂いが、鼻の奥をくすぐる。
浴衣の裾は、彼女が読書の姿勢を変えるたびにわずかに開き、
白い脚線が淡い光を受けて浮かび上がる。
その無自覚な動きこそ、俺の妄想をさらに煽ってくる。
「一人で落ち着ける時間って、いいですよね」
隣の部屋にいる作家に聞こえるはずのない声で、
彼女がぽつりとそう呟いた──あくまで、俺の想像の中で。
その言葉に、妙な合意の気配を感じる。
“ここは自由にほどけていい場所ですよ”
そんな柔らかな許可を含んでいるようで、
俺の心臓が静かに跳ねた。
浴衣のすそから滑り落ちた前髪の束が、
頬にしっとり貼りついている。
そのわずかな湿り気の質感が、
見ているだけで喉がひりつくほど色っぽい。
彼女はただスマホを眺めているだけ。
でも、画面の光に照らされた横顔は、
まるで心の奥をそっと開いてくれるようなやわらかさがある。
肩に落ちた浴衣の布が、ふと揺れる。
その下の肌が、光を受けてゆっくりと呼吸するみたいだ。
大きく深呼吸をするたび、胸元の影がかすかに揺れ、
その静かな動きが、俺の想像をさらに深いところへと誘っていく。
午後の光はやさしい。
それは彼女の輪郭を溶かすように包み込み、
浴衣の端を少しずつほどいていく。
俺はただ、妄想の中でその光景を眺めているだけなのに——
なぜこんなにも息が詰まるのだろう。
やがて彼女は、膝の上に落ちた浴衣のすそを、
ほんの軽い仕草で整えようとする。
しかしその動きが逆に、布の隙間から新しいラインを生み出し、
胸の奥が熱く痺れる。
“もしもそのまま、もう少しだけ油断してくれたら——”
そんな甘い願望が、和室で静かに膨らんでいく。
そして、妄想のクライマックスに触れた直後のような余韻だけが、
ゆっくりと胸に残った。
午後の旅館の光の中で、meiはただ静かに呼吸している。
その無防備さが、すべてを狂わせる。