階段を登り切った先に―手帳のチェックマーク

長い階段を登り切って、渋谷に辿り着いた。

息が切れる。髪は乱れている。額には汗。

でも、やり遂げた。

***

手帳を開く。「やりたいことリスト」のページ。

「渋谷まで、階段だけを使って行く」

そこに、ペンでチェックマークを入れる。

小さなことかもしれない。エスカレーターやエレベーターを使えば、簡単に着く距離。

でも、あえて階段を選んだ。

なぜなら、確かめたかったから。

***

3ヶ月前、私は何もできなかった。

朝起きるのも辛い。外に出るのも怖い。人と話すのも苦痛。

「このままじゃダメだ」とわかっていた。でも、何から始めればいいのか、わからなかった。

そんな時、カウンセラーが言った。

「小さなことから、始めてみませんか?」

***

最初は、家の階段を登ることから始めた。

たった10段。でも、最初の一歩が重かった。

「できない」「無理だ」そんな声が、頭の中で響く。

でも、登った。一段ずつ。

そして、手帳に書いた。「家の階段を登る」そこにチェックマーク。

小さな達成感。でもそれが、嬉しかった。

***

次の週は、駅の階段。その次は、デパートの階段。

一段ずつ、距離を伸ばしていった。

手帳のリストに、ひとつずつチェックが増えていく。

不思議なことに、階段を登るたびに、心も軽くなっていった。

***

階段には、嘘がない。

一段登れば、一段高くなる。サボれば、その場に留まる。

エレベーターのように、ボタンを押せば勝手に上がるわけじゃない。

自分の足で、一歩ずつ登らなければならない。

でもだからこそ、登り切った時の達成感がある。

「私は、ここまで来た」という実感。

***

そして今日、最後の階段。

渋谷駅から地上まで。何段あるかわからない。でも、登ると決めた。

途中、何度も休憩した。足が痛くなった。息が切れた。

「もう無理かも」と思った。

でも、一段ずつ。ただ、それだけを繰り返した。

***

そして今、地上。

スクランブル交差点。人の波。ビルの明かり。

全部が、まぶしい。

手帳にチェックマークを入れる。最後のひとつ。

終わった。「階段プロジェクト」、完了。

***

周りの人々は、誰も知らない。

私がどこから来たのか。どんな階段を登ってきたのか。

でも、それでいい。

大切なのは、私が知っていること。

私は、一段ずつ登ってきた。そして、辿り着いた。

***

手帳を閉じる。胸に抱く。

次のページには、新しいリスト。

「電車に乗る」「カフェで一人で過ごす」「友達に連絡する」

また、一歩ずつ。

でももう怖くない。

階段が教えてくれた。

一段ずつなら、どこまでも行ける。

***

さあ、歩き出そう。

次の階段へ。