長い階段を登り切って、渋谷に辿り着いた。
息が切れる。髪は乱れている。額には汗。
でも、やり遂げた。
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手帳を開く。「やりたいことリスト」のページ。
「渋谷まで、階段だけを使って行く」
そこに、ペンでチェックマークを入れる。
小さなことかもしれない。エスカレーターやエレベーターを使えば、簡単に着く距離。
でも、あえて階段を選んだ。
なぜなら、確かめたかったから。
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3ヶ月前、私は何もできなかった。
朝起きるのも辛い。外に出るのも怖い。人と話すのも苦痛。
「このままじゃダメだ」とわかっていた。でも、何から始めればいいのか、わからなかった。
そんな時、カウンセラーが言った。
「小さなことから、始めてみませんか?」
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最初は、家の階段を登ることから始めた。
たった10段。でも、最初の一歩が重かった。
「できない」「無理だ」そんな声が、頭の中で響く。
でも、登った。一段ずつ。
そして、手帳に書いた。「家の階段を登る」そこにチェックマーク。
小さな達成感。でもそれが、嬉しかった。
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次の週は、駅の階段。その次は、デパートの階段。
一段ずつ、距離を伸ばしていった。
手帳のリストに、ひとつずつチェックが増えていく。
不思議なことに、階段を登るたびに、心も軽くなっていった。
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階段には、嘘がない。
一段登れば、一段高くなる。サボれば、その場に留まる。
エレベーターのように、ボタンを押せば勝手に上がるわけじゃない。
自分の足で、一歩ずつ登らなければならない。
でもだからこそ、登り切った時の達成感がある。
「私は、ここまで来た」という実感。
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そして今日、最後の階段。
渋谷駅から地上まで。何段あるかわからない。でも、登ると決めた。
途中、何度も休憩した。足が痛くなった。息が切れた。
「もう無理かも」と思った。
でも、一段ずつ。ただ、それだけを繰り返した。
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そして今、地上。
スクランブル交差点。人の波。ビルの明かり。
全部が、まぶしい。
手帳にチェックマークを入れる。最後のひとつ。
終わった。「階段プロジェクト」、完了。
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周りの人々は、誰も知らない。
私がどこから来たのか。どんな階段を登ってきたのか。
でも、それでいい。
大切なのは、私が知っていること。
私は、一段ずつ登ってきた。そして、辿り着いた。
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手帳を閉じる。胸に抱く。
次のページには、新しいリスト。
「電車に乗る」「カフェで一人で過ごす」「友達に連絡する」
また、一歩ずつ。
でももう怖くない。
階段が教えてくれた。
一段ずつなら、どこまでも行ける。
***
さあ、歩き出そう。
次の階段へ。