ドレスの裾を翻して、駆け上がり始めた。もう、時間がない。
夕暮れの階段。上を見る。
長い。
でも、登らなきゃ。
なぜなら、「今日中に」と約束したから。
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朝、メッセージが来た。
「今日の夕方、展望台で待ってる。夕日が沈む前に来て」
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行く、と返事をした。
でも、仕事が長引いた。
気づけば、もう5時。
日が沈むまで、あと30分。
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駅から走った。
でも、階段が立ちはだかる。
展望台まで、この階段を登らなければならない。
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上を見る。
夕日が、オレンジ色に染まっている。
綺麗だ。
でも、時間がない。
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一段、踏み出す。
重い。
でも、止まれない。
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また一段。さらに一段。
最初はゆっくり。
でも、だんだん速くなる。
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気づけば、走っていた。
一段飛ばし。二段飛ばし。
ドレスの裾が、翻る。
髪が、乱れる。
でも構わない。
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息が切れる。
足が痛い。
でも止まらない。
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なぜ、こんなに必死なのか。
自分でもわからない。
ただ、約束を守りたい。
「夕日が沈む前に」と。
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階段の途中。
振り返る。
街が、見える。
夕日に染まった、オレンジ色の街。
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綺麗だ。
でも、立ち止まっている暇はない。
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また駆け上がる。
一段、また一段。
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夕日が、沈み始めている。
オレンジが、少しずつ赤くなっていく。
急がなきゃ。
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頂上が、見えてきた。
あと少し。もう少し。
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最後の力を振り絞る。
一段、また一段。
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そして、着いた。
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展望台。
息を整える暇もない。
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そこに、誰かが立っていた。
夕日を見ている。
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「来た!」
振り向いて、笑顔。
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「ごめん、遅れて」
息を切らして言う。
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「大丈夫。間に合ったよ」
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二人で、夕日を見る。
沈んでいく、太陽。
オレンジから、赤へ。
そして、紺色へ。
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「綺麗だね」
相手が言う。
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「うん」
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「ありがとう。来てくれて」
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「こちらこそ」
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風が、吹く。
髪が、揺れる。
ドレスの裾が、翻る。
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「実はね」
相手が言う。
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「今日、伝えたいことがあって」
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心臓が、跳ねる。
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「この夕日を、一緒に見たかったんだ」
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「どうして?」
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「君と、ここで見る夕日が、一番綺麗だと思うから」
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言葉が、出ない。
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「これからも、一緒に見ていい?」
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涙が、出そうになる。
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「うん」
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夕日が、完全に沈む。
空が、紺色に染まる。
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でも、暗くない。
なぜなら、隣に誰かがいるから。
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階段を駆け上がって、良かった。
息を切らして、登って良かった。
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この瞬間のために。
全部、意味があった。
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「帰ろうか」
相手が言う。
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「うん」
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二人で、階段を降りる。
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登ってきた道。
辛かった。
でも、その先に、こんな景色があった。
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階段は、いつも何かを教えてくれる。
登れば、必ず辿り着ける。
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そして、待っている人がいる。
それだけで、どんな階段でも登れる。