駆け上がり始めた。もう、時間がない。
繁華街の階段。ネオンの光が照らす。
上を見る。長い。
でも、登らなきゃ。
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スマートフォンを見る。
18時50分。
約束の時間まで、あと10分。
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「19時に、屋上のバーで」
そうメッセージが来たのは、昼休み。
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「大事な話がある」
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それだけ。
何の話かは、わからない。
でも、行くと約束した。
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仕事が終わったのは、18時30分。
駅まで走った。
そして今、この階段の前。
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上を見る。
ネオンサインが、カラフルに光っている。
階段を照らす、青と赤と黄色の光。
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綺麗だけど、見ている暇はない。
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一段、踏み出す。
また一段。
最初はゆっくり。
でも、すぐに走り出す。
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一段飛ばし。二段飛ばし。
息が切れる。
でも止まれない。
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時計を見る。18時52分。
あと8分。
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もっと速く。
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階段の途中。
立ち止まる。
息を整える。
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上を見る。まだ続く。
下を見る。ここまで来た。
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「間に合うかな」
不安になる。
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でも、スマートフォンが震える。
メッセージ。
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「急がなくていいよ。待ってるから」
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ほっとする。
でも、急ぎたい。
待たせたくない。
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また駆け上がる。
一段、また一段。
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ネオンの光が、階段を照らす。
青い光、赤い光。
まるで応援してくれているみたいで。
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頂上が、見えてきた。
あと少し。
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時計を見る。18時57分。
間に合う。
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最後の力を振り絞る。
一段、また一段。
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そして、着いた。
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屋上のバー。
入り口のドアを開ける。
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落ち着いた音楽。
そして、窓際の席に座る、あの人。
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こちらを見て、笑顔。
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「お疲れさま。大変だったでしょ」
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席に着く。
息が、まだ荒い。
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「階段、走ってきたの?」
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「うん。約束の時間に間に合わせたくて」
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「ありがとう」
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夜景が、綺麗だ。
街の明かりが、きらきらと輝いている。
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「で、大事な話って?」
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あの人が、少し真剣な顔になる。
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「実はね」
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心臓が、跳ねる。
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「転勤になったんだ」
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「え」
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「来月から、大阪」
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言葉が、出ない。
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「だから、今日話したかった」
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「そう、なんだ」
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沈黙。
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「でも」
あの人が続ける。
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「遠距離でも、続けたい」
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「え?」
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「君と。これからも」
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涙が、出そうになる。
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「俺、君のこと好きだから」
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「私も」
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「本当?」
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「うん。ずっと」
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あの人が、笑った。
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「良かった」
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二人で、夜景を見る。
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「階段、走ってきて良かった」
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「え?」
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「この話、聞けて良かったから」
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「俺も。伝えられて良かった」
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ネオンの光が、窓から見える。
カラフルな光。
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あの階段を登らなければ、この瞬間はなかった。
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遠距離になる。
でも、大丈夫。
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なぜなら、お互いの気持ちがわかったから。
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階段は、いつも教えてくれる。
登れば、必ず何かが待っている。
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辛いこともあるかもしれない。
でも、登る価値がある。
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そして今夜、私はそれを知った。