風が言った。「最後まで、ちゃんと」と。
帰り道の階段。上を見る。
家は、この階段の上。
コートが重い。一日着ていたから。
疲れた。でも、登る。
なぜなら、ちゃんと帰らなきゃいけないから。
今日を、終わらせなきゃいけないから。
一歩、踏み出す。
階段に足をかける。コートが揺れる。
また一歩。今日は、どんな日だった?
良い日? 悪い日?
どっちでもない。普通の日。
でも、それでいい。
階段を登る。一段ずつ。
登りながら、今日を振り返る。
朝、起きた。準備した。出かけた。
仕事した。昼ごはん食べた。また仕事した。
そして、帰ってきた。
普通の一日。
でも、大切な一日。
階段の途中。立ち止まる。
振り返る。今日という日が、遠くなっていく。
もう、戻れない。
でも、それでいい。
明日がまた来るから。
また登る。風が吹く。
「もう少しだよ」と。
そうだね。もう少し。
家まで、あと少し。
今日を終わらせるまで、あと少し。
頂上が見えてきた。
家のドア。
「もうすぐ」
最後の数段。コートが重い。
でも、登り切る。
そして、着いた。家。
鍵を開ける。
ドアを開ける。
ただいま。
今日が、終わる。
コートを脱ぐ。軽くなる。
今日という重さを、脱いだ気がした。
風が、最後に吹いてくる。
外から。「お疲れさま」と。
ありがとう。
今日を、ちゃんと終わらせることができた。
帰り道の階段は、儀式。
一日を終わらせる、大切な儀式。
ちゃんと登って、ちゃんと帰る。
そうすることで、今日が終わる。
そして、明日が始まる準備ができる。
おやすみ、今日。
おはよう、明日。