ruriは、女子大学に通う4年生。
人前ではおとなしく、礼儀正しい。だがその胸の奥には、誰にも言えない小さな秘密があった。
それは制服のコスプレ——ただ着るだけではない。布の感触、リボンを結ぶ指先、鏡に映る自分を眺める時間。そのすべてが、彼女にとってかけがえのない“解放”だった。
ラックには何着もの制服が並んでいる。今日はその中から、真っ白なシャツとネイビーとブルーが交差するチェック柄のプリーツスカートを選んだ。
胸元には同じ色合いのリボンタイを合わせる。
——この組み合わせ、やっぱり一番好き。
スカートを手に取ると、さらりとした生地が指をすべる。新品に近い匂いが微かに漂い、ruriは思わず目を細めた。
部屋の隅、全身が映る大きな鏡の前に立つ。
まだ私服のままの自分と目が合う。そこにいるのは、どこにでもいる女子大生。だが、これから変わっていく——その予感が、胸の奥をくすぐる。
まずはシャツのボタンを外す。腕を抜き、ベッドの上に置く。
下着姿になった自分の肩が、空気に触れてわずかに震えた。
——誰も見ていないはずなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。
ruriは小さく息を吸い、シャツの袖に腕を通す。ボタンをひとつずつ留めるたびに、胸元が整い、鏡の中の自分が制服の少女へと変わっていく。
スカートを腰に巻き、ファスナーを上げると、自然と背筋が伸びた。
プリーツがふわりと広がる。足元には白いソックス、そしてローファー。
鏡の中の彼女は、もう“女子大生のruri”ではない。“なりたい自分”になっていた。
「ふふ……」
頬に笑みが浮かぶ。裾を指先でつまみ、軽く回ってみる。スカートが空気をはらみ、柔らかく広がった。
その瞬間、まるで時間が止まったような感覚に包まれる。
制服に袖を通すと、ruriの中で何かが目を覚ます。抑えていた感情が、じわじわと身体を満たしていく。
壁際に立ち、カーテンを少しだけ開ける。
外の光が差し込み、シャツの白が淡く輝く。
もしかしたら——どこかの誰かが、この姿を見ているかもしれない。
その考えが胸の奥をざわつかせる。ほんの一瞬、裾を揺らす風が、太ももの素肌を撫でた。
ベッドに腰掛け、スカートのひだを整える。
ruriは鏡の中の自分を見つめながら、ゆっくりと脚を組み替えた。スカートの奥、淡い影がちらりと覗く。
——もし、あの人がここにいたら……。
想像は自然に、あの日の街角へと戻っていく。
視線が交わるだけで胸が高鳴ったあの瞬間。
もしも彼が、この姿を見たら、どんな顔をするだろう——。
ruriは軽く目を閉じ、制服の布を指先でなぞる。生地越しに感じる自分の温度が、少しずつ上がっていく。
胸元のリボンを解き、ゆっくりと襟を緩める。首筋に触れる空気がひんやりとして、背筋が小さく震えた。
窓の外から聞こえる街のざわめきが、やけに遠く感じる。
この部屋の中では、自分だけが世界の中心——そんな錯覚さえ覚える。
やがて、ruriは立ち上がり、もう一度鏡の前へ。
制服姿の自分と目が合う。
その瞳には、最初にこの部屋へ来たときにはなかった光が宿っている。
制服を着ること——それはただの趣味ではない。心の奥にしまい込んだ自分を解き放つ儀式。
そして、その瞬間を誰かに見てほしいと願う、密かな衝動。
時計を見ると、まだ時間はある。
ruriは鏡の前でくるりと一回転し、スカートの裾をふわりと持ち上げた。
目の前の自分に微笑みかけるその表情は、もう完全に“制服の少女”だった。
——外では言えないこと、できないこと。
それを叶えるために、彼女はこの部屋に通い続ける。
そして今日もまた、制服に袖を通すたびに、世界は少しだけ色を変えていく。