「登ってごらん」 風がそう言った。
冬の午後。 グレーのコートに包まれて。 階段の前に立つ。
一段目。 ゆっくり足を置く。
昔の私は、完璧でいようとした。 間違えることが怖くて。 誰かに嫌われることが怖くて。 いつも、自分を責めていた。
二段目、三段目。 ポケットに手を入れたまま。 自分のペースで登る。
風が吹く。 髪が揺れる。 「まだ自分を責めてる?」と聞かれる。
少し考える。 首を横に振る。
もう、いいんだ。 完璧じゃなくても。 間違えても。 それが私だから。
階段の途中で立ち止まる。 振り返ると、歩いてきた路地が見える。 あの頃の私が、遠くに見える。
また登り始める。 一段。また一段。
頂上に着く。 冬の風が頬を撫でる。 冷たい。でも、心地いい。
風が言う。 「いい顔してるね」と。
そうかもしれない。 今の私は、昔より少し優しい顔をしていると思う。 自分に対して。
完璧じゃない自分を許すこと。 それは弱さじゃない。 一番の強さだ。
風が笑う。 「そうだよ」と。
グレーのコートが風に揺れる。 ポケットの中の手が温かい。 今日も、このままの私でいい。