風が言った。「準備はできた?」と。
梅が咲く住宅街の路地。 その先に、階段があった。
気温は15度。 日向が温かくて、少し春の匂いがした。 コートを羽織って、ちょうどいいくらい。 空気が澄んでいた。
最初の一段を踏み出す。 重くはなかった。 でも、軽くもなかった。
一段、また一段。 登るたびに、梅の木が小さくなっていく。 白い花びらが、風に揺れていた。
途中で立ち止まった。 振り返ると、歩いてきた路地が見えた。 長く、まっすぐな道。
「こんなに来たんだ」 そう思ったら、少し胸が軽くなった。
また登り始めた。 風が吹く。髪が揺れる。 「もう少しだよ」と、風が言った。
頂上に着いた。 空が広かった。 梅の木が、ずっと下に見えた。
白い花は、そこからでも見えた。 小さくても、ちゃんと咲いている。
私も、ちゃんと登れた。 一段ずつ、自分のペースで。
風が最後に言った。 「春は、焦らない人のところに来るんだよ」と。