梅咲く頃の階段―ここまで来た、私へ

風が言った。
「ここまで来たね」と。

住宅街の古い階段を登り始める。
梅の花が咲いていた。
白い小さな花が、枝いっぱいに。
冬が終わった証拠のように。

16度。
コートを羽織ると少し暑いくらいの午後。
春が、確かに来ている。

一段、また一段。
登りながら思い出す。

去年の冬は、きつかった。
歩くのが、重かった。
この坂を登るのも、しんどかった日があった。
それでも、来た。ここまで。

梅は咲く。
毎年。必ず。何も言わずに。
誰に頼まれたわけでもないのに。

「どこまで登るの?」
風が訊く。

「ここまで来たんだから、もう少し」
そう答えた。

終わりじゃない。
でも、ここまで来た事実がある。
それだけで、今日は十分だと思えた。

踊り場に差し掛かる。
振り返ると、歩いてきた路地が見える。
遠くない。でも、確かな距離。

梅の花びらが一枚、風に舞う。

「よく来たね」
その一枚が言ったような気がした。

もう少し、登ろう。
焦らなくていい。
梅が毎年教えてくれるように。
ちゃんと咲く季節は来る。

一段。また一段。
足元に、春の光が差している。
その光が、少し温かかった。