春雨の階段―雨の日に、登ることにした

「登るの?」

風が聞いた。 石段の前に立って、迷っていた私に。

今日は雨だ。 15℃。傘が手放せない。 濡れた路面が、白い花びらを映している。

こんな日に、登らなくてもいい。 そう思っていた。 雨の日は、止まっていていい。 そう言い訳していた。

でも、傘を握り直した。

最初の一段。 靴底が、石の感触を拾う。 雨粒が、コートの肩を叩く。 それでも、足は動く。

登りながら、気づいた。 雨の日にしか、見えない景色がある。 濡れた桜の花びら。 滲んだ街の輪郭。 傘越しの、柔らかいグレーの空。

晴れの日だけが、美しいわけじゃない。

階段を登り切ったとき、振り返った。 路地が、遠くなっていた。

風が言った。 「雨の日に登れたなら、晴れの日は怖くない」

そうか。 今日の雨も、明日への準備だったのか。

来週は、お花見日和になるらしい。 楽しみにしよう。 この足で、また出かけよう。