春の階段―雨の日に、一段だけ

「明日、桜が満開になるらしいよ」 鏡が、そっと教えてくれた。

今日は雨だった。 最高気温13度。 コートがちょうどいい、そんな日。 外の音が聞こえなかった。 雨が窓を、静かに叩いていた。

ヨガスタジオの床に座っていた。 鏡の前で、膝を抱えて。 何をするわけでもなく、ただそこにいた。

動けなかった。 正直に言えば、今日は、一歩も前に踏み出す気がしなかった。

でも、窓の外を見たら、桜が咲いていた。 雨に濡れながら、咲いていた。

「雨の日でも、咲くんだな」

そう思ったら、少し、体が軽くなった。

ゆっくり立ち上がった。 一段、だけでいい。 床から立ち上がるのも、階段を登るのも、同じだと思った。

「どこへ行くの?」と鏡が聞く。 「明日へ」と答えた。

窓の外の桜は、今日の雨に背中を押されている。 私も今日の雨に、押してもらえた気がした。

明日は満開になるらしい。 私も、明日、一歩だけ前に進もう。 それだけで、十分だと思う。

雨の日も、階段は続いている。 上を向けば、春がある。