雨の階段―濡れても、登る

風が言った。 「今日、雨だよ」と。

知ってる。 傘を差して、路地を歩いていた。

濡れた石段が見えた。 桜の木の根元から始まる、古い階段。 雨に濡れて、暗く光っている。

登るか、立ち止まるか。

足が、動いた。

一段目。 冷たい空気が頬をかすめる。 17度。春の雨の温度。

二段目、三段目。 傘の縁から雨粒が落ちる。 桜が、真横に見えてきた。

昔は、こんな日に外に出なかった。 面倒で、億劫で。 「雨だから」がいつも言い訳になっていた。

でも最近、変わった気がする。 「雨だから」が、理由にならなくなった。

階段の途中で、立ち止まった。 振り返ると、濡れた路地が続いている。 思ったより、登ってきた。

「まだ行けそう?」風が聞く。 「行けそう」と答えた。 自分でも驚くくらい、迷わなかった。

頂上に着いた。 桜が、雨の中で静かに咲いていた。 華やかじゃない。 でも、揺るがない。

条件が揃ってから咲こうとしていたのは、私だけだった。

風が笑う。 「ようやく気づいた?」

うん。ようやく。