「どこへ行くの?」
桜が聞いた。 住宅街の石畳の坂道で、立ち止まったとき。
気温19度。 薄い雲越しに、春の光が降りていた。 地面には、白い花びら。
一段、踏み出した。 また一段。
コートが春に合っていた。 重たくない。 でも、しっかりと体を包んでいる。
花びらが一枚、舞い落ちた。
登りながら、考えていた。 半年前の自分は、何を考えていたのだろう。
あのころは、足が重かった。 一段踏み出すたびに、躊躇した。 「本当にここでいいのか」と。 「もっとましな道があるんじゃないか」と。
今日は違った。
「どこへ行くの?」
桜がもう一度、聞いた。
「前へ」
即答した。 自分でも驚いた。 こんなに早く、言葉が出てくるとは。
桜が、花びらを一枚落とした。 祝福みたいに、肩の上に。
登り続ける。 花びらが舞う中を、一段ずつ。
頂上に着いた。 街が見えた。 桜の木が、あちこちにある。
みんな、前を向いていた。
春の風がようやく吹いた。 「よく言えたね」と、桜が笑った。
「前へ」は、答えじゃない。 でもきっと、答えへの第一歩だ。