花散らしの階段―散っても、登る

風が言った。 「散っていくよ」と。

花散らしの雨が降っていた。 満開から三日。 東京は今日、嵐だった。

階段を見上げた。 濡れた石段。 花びらが貼りついていた。

登ろうか。 一瞬、迷った。

でも足は動いていた。

一段。 また一段。

風が強くなる。 コートの裾が暴れる。 でも、止まらなかった。

昔の私は、こういう日に立ち止まった。 天気のせいにして。 気分のせいにして。 「また今度」と言い訳して。

でも今日は違った。 散っていく桜を見ながら、思った。

花は散っても、また咲く。 私も、散っていいんだ。 散りながら、進めばいい。

階段の途中で立ち止まった。 振り返らなかった。 上だけを見た。

風が言う。 「綺麗だよ」と。

散った花びらが、肩に落ちてきた。 冷たかった。 でも、優しかった。

また一段、登った。