――その瞬間、彼女はもう、逃げられない場所に立っていた。
ruriは女子大4年生。普段は落ち着いた文学少女で、学内でも目立つ存在ではない。しかし心の奥底には、人に言えないもうひとつの顔がある。制服やブレザー、プリーツスカートといった“コスプレ”に身を包むと、日常では抑えている感情が一気に解き放たれるのだ。
彼女が通い続けている繁華街の小さなレンタルルームは、そんな二つ目の自分を許してくれる唯一の場所だった。時間制の完全個室。窓はカーテンで覆われ、外の視線は入らない。…はずなのに、いつもruriの胸には不思議な緊張が走る。
――もしかしたら誰かに見られているかもしれない。
そんな空想が、彼女の血を熱くし、指先を震わせる。
今日は特別だった。先ほどまで、廊下に出たり、化粧室で肌をさらしたりと、自分でも信じられないほど大胆な行動をしてしまった。ドアを閉めて鍵をかけた瞬間、ようやく現実に引き戻される。
「…私、なにやってるんだろ…」
ソファに腰を下ろすと、心臓が早鐘のように鳴っていた。さっきまでの熱気が引くと同時に、急に頬が熱くなる。恥ずかしさと後悔が押し寄せてくるのに、なぜか脚の奥がじんわりと疼いている。
ふと、壁の鏡に映った自分と目が合った。制服のシャツの襟は乱れ、リボンも緩んでいる。そこから覗く首筋が赤く染まり、胸元がわずかに上下しているのが見えた。その姿は、まるで“恥じらい”と“昂ぶり”が同居した、知らない誰かのようだった。
「…もう、戻れないかも…」
ruriは小さく息を吐き、両手でスカートの裾を握った。太ももの付け根に触れた布の感触に、背筋が小さく震える。視線を床に落としながら、ゆっくりとその布を持ち上げていく。
外からは、誰の足音もしない。静まり返った部屋の空気の中、自分の鼓動と呼吸だけがやけに大きく響く。裾が膝を越えると、脚の内側にひやりとした空気が触れ、緊張と快感が入り混じった波が一気に広がった。
「見られてる…かもしれない」
心のどこかでそう思った瞬間、ruriはゆっくりと膝を開いた。制服姿のまま、下着越しの自分を曝け出す――その行為が、どうしようもなく彼女を支配していく。
膝が完全に開ききったとき、全身の血が一気に熱くなった。胸元から太ももまで、制服の中に隠されていた部分が、まるでスポットライトを浴びたかのように鮮やかに浮かび上がる。
「…こんなの、絶対に誰にも見せられないのに…」
それでも、脚を閉じようとは思わなかった。
むしろ、そのままの自分を見てほしいという、得体の知れない衝動が胸を締めつけていた。
窓の外に人影はない。けれど、見えない誰かの視線を感じるたび、彼女の吐息は甘く震え、頬は赤く染まっていく。
ruriは、もう知ってしまった。
恥ずかしさのあとに訪れる、このどうしようもない熱を。
そして、それが制服の中の自分を、確実に変えていくことを――。