
でも、彼女がここに立つ理由は、ただ散歩を楽しむためではなかった。
スマートフォンの画面には、3年前の同じ場所で撮った写真が映っている。あの日も、同じように風が吹いていた。同じように太陽が傾きかけていた。違うのは、隣に誰かがいたことだけ。
「変わらない景色があるって、不思議だね」
彼女は小さく呟いた。街は常に動き続けている。人は入れ替わり、店は変わり、ビルは建て替えられる。それでも、光の角度や風の匂いは、あの日のままだった。
カバンの中から取り出した手帳を開く。「また来よう」とだけ書いて、ページを閉じた。
人は時々、変わらないものを確かめるために、同じ場所に戻ってくる。それは過去に縛られているのではなく、今の自分を確認する作業なのかもしれない。彼女の足取りは、来た時よりも少しだけ軽くなっていた。
夕暮れが近づき、街の色が少しずつ変わり始める。彼女は振り返ることなく、次の角を曲がっていった。明日もまた、どこかで誰かの物語が始まる。