
スマホを握る手に、少しだけ力が入る。昨夜、長い時間をかけて決めたことがある。
「もう、振り返らない」
簡単なことのように聞こえるけれど、彼女にとってそれは、これまでで一番難しい決断だった。過去を手放すということ。もしかしたら、もう一度やり直せるかもしれない。そんな淡い期待を、完全に諦めるということ。
でも昨夜、鏡の中の自分に問いかけた。「このまま、いつまで待つの?」答えは出ていた。ずっと前から、わかっていた。
朝の光が、街を優しく照らしている。風が髪を揺らし、前へ前へと背中を押してくれる気がした。
スマートフォンの通知は、もう鳴らない。ブロックしたから。削除したから。これで本当に、繋がる方法はなくなった。
寂しい?そう聞かれたら、嘘はつけない。でも、それ以上に清々しかった。重い荷物を降ろしたような、そんな軽さがあった。
前を見る。ただそれだけ。後ろには、もう何もない。
彼女の足は、新しい場所へと向かっている。どこへ辿り着くかは、まだわからない。でもそれでいい。迷いのない一歩は、どんな場所へでも連れて行ってくれるから。
風が、また吹いた。今度は、もっと強く。