
ペンを握る手が、震える。でもそれは、不安からじゃない。
ノートには、昨夜書いた言葉が並んでいる。「本当にやりたいことって、何だろう」「誰かの期待に応えることが、私の幸せなのか」「10年後、後悔しない選択は?」
問いかけばかりで、答えは空白のままだった。でも今朝、目が覚めた瞬間、不思議と心は決まっていた。
カバンの中のノートを取り出したのは、その答えを忘れないため。街の喧騒の中で、ペンを走らせる。
「私は、」
最初の一文字を書くのに、5分もかかった。でも一度書き始めると、言葉は溢れるように出てきた。
「私は、本を書きたい。誰かの心に残る、物語を。」
シンプルな一文。でもこれを書くのに、どれだけの時間がかかっただろう。周りの目を気にして、「現実的じゃない」と自分で蓋をして、いつか叶えばいいと先延ばしにして。
でも、もういい。今日から始める。
ノートを閉じて、顔を上げる。街はいつもと変わらず動いている。でも私の世界は、今、確かに変わり始めた。
次のページに書くのは、物語の第一章。主人公の名前は、もう決まっている。