
信号が変わるまで、あと10秒。でも足が動かなかった。
風でめくれた本のページ。そこに書かれていた一文。
「怖いのは、失敗することじゃない。試さないことだ」
何度も読んだはずの本。でも今日、この場所で、この言葉に出会うまで、本当の意味を理解していなかった。
周りの人々は、私を避けて通り過ぎていく。横断歩道の真ん中で立ち尽くす人なんて、邪魔でしかないだろう。でも、動けなかった。
昨日、メールを送ろうとして、やめた。「まだ準備が整っていない」と自分に言い聞かせて。でも本当は、返事が怖かっただけ。断られることが、失敗することが、怖かった。
でも、試さなければ、答えは永遠にわからない。
信号が赤に変わる。クラクションが鳴る。我に返って、走り出した。
渡り切った向こう側で、立ち止まる。スマートフォンを取り出す。下書きフォルダに、3日前から保存されているメール。
「送信」
ボタンを押した。今度は、迷わなかった。
本を閉じて、カバンにしまう。ページの端が折れている。風でめくれた、あのページ。
答えがどうであれ、もういい。試したから。それだけで、十分だった。