階段を駆け上がる3分間―約束の時間まで

あと3分。

時計を見た瞬間、走り出した。

駅の長い階段。いつもはエスカレーターを使う。でも今日は、そんな余裕はない。

約束の時間まで、あと3分。

***

「5時に、改札で」

昨夜、そうメッセージをもらった。

3年ぶり。会うのは、3年ぶり。

あの日、別れた。お互いの道を行くために。

でも、先週。

「話したいことがある」

そのメッセージが、全てを変えた。

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階段を駆け上がる。

一段飛ばし、二段飛ばし。

足が重い。息が切れる。

でも止まれない。

なぜなら、遅刻したら、きっと何かが変わってしまう気がして。

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手帳を握りしめる。

この3年間、書き続けてきた言葉。

会えない日々の中で、伝えられなかった想い。全部、ここに。

「まだ好きです」
「忘れられない」
「会いたい」

ページをめくるたび、過去が蘇る。

でも今日、この手帳は必要ない。

なぜなら、今日は直接伝えられるから。

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階段の途中。振り返る。

下には、まだ長い道のり。

でも上を見れば、もう少し。

あと少し。

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足が滑りそうになる。

手すりを掴む。バランスを取り直して、また駆け上がる。

髪が乱れる。汗が流れる。

でも構わない。

大切なのは、時間に間に合うこと。

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時計を見る。あと1分。

心臓が、激しく鳴る。

運動のせいなのか、緊張なのか、もうわからない。

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頂上が見えた。

改札が、見える。

そして、そこに立つ人影。

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駆け上がる。最後の力を振り絞って。

5段、4段、3段、2段、1段。

着いた。

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息を整える暇もない。

その人が、こちらを向いた。

3年前と、何も変わらない顔。

でも、目が違う。

優しい目。待っていてくれた目。

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「遅れて、ごめん」

最初の言葉は、謝罪。

でも、相手は笑った。

「間に合ったじゃん。ギリギリだけど」

時計を見る。5時00分。

ぴったり。

***

手帳を握る手が、震える。

伝えたいことは、山ほどある。

でも今は、ただ一言。

「会えて、嬉しい」

相手も、同じように言った。

「俺も」

***

階段を駆け上がった3分間。

それは、この3年間の全てだった。

必死に登ってきた。一歩ずつ、時には駆け足で。

そして今、辿り着いた。

***

「カフェ、行こうか」

相手が言う。

頷く。

二人で、階段を降りる。

今度は、ゆっくりと。

隣に並んで。

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手帳は、カバンの中。

もう、開かなくていい。

なぜなら、これから先の言葉は、

この手帳じゃなくて、二人の間で紡がれるから。

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階段を降りながら、思う。

登ってきた道のり。

辛かった。でも、無駄じゃなかった。

この瞬間のために、全部必要だった。

***

「そういえば」

相手が言う。

「俺も、ずっと日記つけてたんだ」

え、と驚く。

「君に会えない日々を、全部書いてた」

同じだった。

二人とも、同じことをしていた。

***

階段の下に、辿り着く。

今度は、一緒に登っていこう。

そう思った。