
一歩、踏み出した。もう、引き返せない。
夜の街。長い階段の前で、私は立ち尽くしていた。
***
この階段を登った先に、あの人が待っている。
「屋上のバー、予約したよ。待ってる」
メッセージが来たのは、1時間前。
***
行くべきか。
迷っていた。
なぜなら、今夜伝えることがある。
伝えたら、きっと何かが変わる。
良い方にか、悪い方にか。
それは、わからない。
***
階段を見上げる。
長い。暗い。
でも上の方に、明かりが見える。
あそこに、あの人がいる。
***
ネオンの光が、揺れる。
まるで「登れ」と言っているみたいで。
深呼吸。
そして、一歩。
***
足が、階段に触れる。
重い。でも、進む。
もう一歩。さらに一歩。
***
階段を登りながら、思い出す。
この人と出会ったのは、2年前。
最初は、ただの同僚。
でも、いつからか。
会うたびに、心が跳ねるようになった。
***
「好き」
その言葉を、飲み込み続けて2年。
でも今夜、決めた。
伝えよう。
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階段の途中。立ち止まる。
息が切れる。
でも、それだけじゃない。
怖いんだ。
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伝えたら、どうなる?
関係が壊れるかもしれない。
今の「友達」すら、失うかもしれない。
***
でも、伝えなかったら?
この想いを、また飲み込んで。
また2年、我慢するのか?
***
顔を上げる。
上の方に、明かりが見える。
あそこに、あの人がいる。
待っている。
私を。
***
また一歩。
今度は、止まらない。
一段ずつ、確実に。
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階段を登るたびに、決意が固まる。
伝えよう。
結果がどうであれ。
伝えなかった後悔より、伝えた後悔の方がいい。
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頂上が、見えてきた。
バーの入り口。
温かい光が、漏れている。
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最後の数段。
心臓が、激しく鳴る。
でも、止まらない。
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そして、着いた。
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ドアを開ける。
落ち着いたジャズの音楽。
そして、窓際の席に座る、あの人。
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こちらを見て、手を振る。
笑顔。
「待ってたよ。大変だったでしょ、あの階段」
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席に着く。
「うん、ちょっと」
笑って答える。
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夜景が、綺麗だ。
街の明かりが、きらきらと輝いている。
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「話って?」
あの人が聞く。
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息を整える。
心臓が、まだ激しく鳴っている。
階段のせいか、緊張のせいか。
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「あのね」
声が、少し震える。
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「ずっと、言えなかったことがあって」
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あの人が、じっと見る。
優しい目。
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「言っていい?」
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「もちろん」
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深呼吸。
そして。
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「好きです」
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言った。
ついに、言った。
2年分の想いを。
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沈黙。
長い、長い沈黙。
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そして、あの人が笑った。
「やっと言ってくれた」
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え?
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「実は、俺も」
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心臓が、止まりそうになる。
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「ずっと、好きだった」
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涙が、出そうになる。
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「でも、言えなくて」
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同じだった。
お互いに、2年間。
想いを、抱えていた。
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夜風が、窓から入ってくる。
髪が、揺れる。
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「階段、登ってきて良かった」
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そう言うと、あの人も笑った。
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「うん。来てくれて、ありがとう」
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夜の階段。
あれを登らなければ、この瞬間はなかった。
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迷ったけど、登って良かった。
怖かったけど、伝えて良かった。
***
夜景を見ながら、思う。
階段は、いつも何かを教えてくれる。
登れば、必ず景色が変わる。
***
そして今夜、私の景色は、
確かに変わった。