夜の階段を登る理由―待っている人がいるから

一歩、踏み出した。もう、引き返せない。

夜の街。長い階段の前で、私は立ち尽くしていた。

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この階段を登った先に、あの人が待っている。

「屋上のバー、予約したよ。待ってる」

メッセージが来たのは、1時間前。

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行くべきか。

迷っていた。

なぜなら、今夜伝えることがある。

伝えたら、きっと何かが変わる。

良い方にか、悪い方にか。

それは、わからない。

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階段を見上げる。

長い。暗い。

でも上の方に、明かりが見える。

あそこに、あの人がいる。

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ネオンの光が、揺れる。

まるで「登れ」と言っているみたいで。

深呼吸。

そして、一歩。

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足が、階段に触れる。

重い。でも、進む。

もう一歩。さらに一歩。

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階段を登りながら、思い出す。

この人と出会ったのは、2年前。

最初は、ただの同僚。

でも、いつからか。

会うたびに、心が跳ねるようになった。

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「好き」

その言葉を、飲み込み続けて2年。

でも今夜、決めた。

伝えよう。

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階段の途中。立ち止まる。

息が切れる。

でも、それだけじゃない。

怖いんだ。

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伝えたら、どうなる?

関係が壊れるかもしれない。

今の「友達」すら、失うかもしれない。

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でも、伝えなかったら?

この想いを、また飲み込んで。

また2年、我慢するのか?

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顔を上げる。

上の方に、明かりが見える。

あそこに、あの人がいる。

待っている。

私を。

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また一歩。

今度は、止まらない。

一段ずつ、確実に。

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階段を登るたびに、決意が固まる。

伝えよう。

結果がどうであれ。

伝えなかった後悔より、伝えた後悔の方がいい。

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頂上が、見えてきた。

バーの入り口。

温かい光が、漏れている。

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最後の数段。

心臓が、激しく鳴る。

でも、止まらない。

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そして、着いた。

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ドアを開ける。

落ち着いたジャズの音楽。

そして、窓際の席に座る、あの人。

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こちらを見て、手を振る。

笑顔。

「待ってたよ。大変だったでしょ、あの階段」

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席に着く。

「うん、ちょっと」

笑って答える。

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夜景が、綺麗だ。

街の明かりが、きらきらと輝いている。

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「話って?」

あの人が聞く。

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息を整える。

心臓が、まだ激しく鳴っている。

階段のせいか、緊張のせいか。

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「あのね」

声が、少し震える。

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「ずっと、言えなかったことがあって」

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あの人が、じっと見る。

優しい目。

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「言っていい?」

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「もちろん」

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深呼吸。

そして。

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「好きです」

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言った。

ついに、言った。

2年分の想いを。

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沈黙。

長い、長い沈黙。

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そして、あの人が笑った。

「やっと言ってくれた」

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え?

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「実は、俺も」

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心臓が、止まりそうになる。

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「ずっと、好きだった」

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涙が、出そうになる。

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「でも、言えなくて」

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同じだった。

お互いに、2年間。

想いを、抱えていた。

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夜風が、窓から入ってくる。

髪が、揺れる。

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「階段、登ってきて良かった」

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そう言うと、あの人も笑った。

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「うん。来てくれて、ありがとう」

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夜の階段。

あれを登らなければ、この瞬間はなかった。

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迷ったけど、登って良かった。

怖かったけど、伝えて良かった。

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夜景を見ながら、思う。

階段は、いつも何かを教えてくれる。

登れば、必ず景色が変わる。

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そして今夜、私の景色は、

確かに変わった。