
風が言った。「一人の時間が必要だったね」と。
夜の階段。街の灯りを背に登る。
人波から、離れて。
一歩、踏み出す。
階段に足をかける。静かに。
また一歩。喧騒が、遠くなる。
階段を登る。一段ずつ。
登りながら、思う。
街の中にいると、自分を見失う。
人に合わせて。流れに合わせて。
いつの間にか、自分がどこにいるかわからなくなる。
だから、離れる。
階段の途中。立ち止まる。
振り返る。
街の灯りが、下に見える。
綺麗だ。
少し離れた方が、綺麗に見える。
また登る。風が吹く。
「一人の時間が必要だったね」と。
そうだね。
一人になって、やっと自分に戻れる。
喧騒の中では聞こえなかった声。
自分の声が、聞こえる。
頂上が見えてきた。
「もうすぐ」
静かな場所。
自分だけの場所。
最後の数段。
コートが、風で揺れる。
ストールが、首元を温める。
そして、着いた。頂上。
振り返る。
街の灯りが、遠くに輝いている。
あの中に、さっきまでいた。
でも今は、ここにいる。
静かな場所に。
風が吹く。最後に。
「どう?落ち着いた?」と。
頷く。ありがとう。
落ち着いた。
自分に、戻れた。
時々、こういう時間が必要。
人から離れて。
街から離れて。
自分と向き合う時間。
この階段が、その場所を作ってくれた。
喧騒と静寂の間にある階段。
登ることで、切り替わる。
社会の自分から、本当の自分へ。
また明日、街に戻る。
人波の中に、戻る。
でも今夜は、ここにいよう。
静かに。一人で。自分と一緒に。